【国際機構論】 2010年6月15日二村まどか様 国連大学 Academic Programme Officer

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2010年度法政大学法学部
「国際機構論」

■テーマ : 国際刑事裁判所・法廷と混合法廷について
■講 師 : 二村まどか様
■日 時 : 2010年6月15日(火) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 306教室
■作成者 : 田口 亜美 法政大学法学部政治学科2年

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<Ⅰ.講義概要>

1.国際刑事裁判とはなんであるか
(1)国際刑事裁判とは何であるか。国際犯罪の責任者(個人)を国際裁判所で裁くことを指す。最も古くから認識されている国際犯罪は海賊行為とハイジャックなどである。現在国際刑事裁判で一般的に起訴の対象としているのは戦争犯罪・人道に対する罪・ジェノサイド罪(集団殺害犯罪)である。
(2)国際刑事裁判所で裁かれる可能性のある個人とは、全人類を対象としているのではなく「最も責任のあるもの」であり、国家元首もターゲットになる。
(3)アナーキーな国際社会において、誰が被疑者の逮捕に責任を持つのかが問題になってくる。国際裁判は、国家間の責任の所在を明らかにするものから、個人が国際法下で直接責任を問われるものになった。時に国家主権を侵害する可能性があるとも言える。

 2.創設の過程
(1)WWⅡ後のニュルンベルク裁判と東京裁判が今日の国際刑事裁判所の基礎となっている。
(2)重要なのはこの二つの裁判が初めての公式な国際刑事裁判であり、のちの国際人道法・国際人権法の発展へ大きな貢献を果たしたということである。
(3)ニュルンベルク・東京裁判以降冷戦時代には国際刑事法廷・裁判所が作られることはなかった。その理由として、イデオロギー対立によって二極化した世界において、国家が合意の上で協力することが難しかったことと、これが国家主権を脅かす要素であったこと、また当時はまだ人権問題がそれほど重要視されていなかったということが原因である。
(4)冷戦終結後はどのように変化したか。国際情勢が大きく変化した。国家間戦争や核戦争の恐怖が遠のいた後、表面化してきたのは国内における紛争である。1990年代には人道的介入によって被害者を救済することに関する議論が活発に行われ、国家主権がもはや絶対的なものではないという認識が世界中に広まっていった。国家主権の名のもとで許されてきた人権侵害は非難され、人権問題や難民問題に対する国際的世論が広まっていった。こういったことが国際刑事裁判実現のための土壌となっていったのである。

 3.国連の国際刑事法廷
(1)国連の国際刑事法廷とは何であるか。安保理の強制措置としての国際刑事法廷である。安保理が旧ユーゴにおける紛争とルワンダでの内戦を国際の平和と安全に対する脅威と認定し、ICTY,ICTRが設立される。
(2)これらは国内裁判に対し優越性があるため、「国際司法介入」とも言われた。国際の平和と安定、そして紛争後の社会の構築と和解のためのツールであって、必ずしもJusticeをそのものを追求したものではない。
(3)これらの問題点がいくつかある。逮捕・公判の遅れ・金銭面が主で、現地社会のニーズに応えていないという点である。これらの反省が、国際・国内両要素を持つ混合法廷の設立のきっかけとなる。
(4)混合法廷は国連と当該国同意のもとで設立される。シエラレオネ特別法廷、カンボジア特別法廷、コソボパネル、東ティモール重大犯罪特別法廷が、混合法廷とし設置される。国内司法機関が円滑に機能しないとして、外国人裁判官・検察官が介入する。

4.国際刑事裁判所(ICC)
(1)ICCとは何であるか。120カ国署名のもと、ローマ規定により初の常設の国際刑事裁判所として創設される。
(2)国家主権が脅かされる可能性があることから、7カ国が反対する。アメリカ、中国、イスラエル、イラク、リビア、カタール、イエメンである。
(3)最も重大な国際犯罪を対象とするが侵略の定義が問題である。
(4)原則として締約国以外にICCが介入することはない。国内裁判所が犯罪を捜査・起訴する能力や意思がない、あるいは要請を受けた場合のみ活動する。
(5)安保理はICCに事態を付託したり活動を一定期間停止する権利を持つ。これはICCの独走を防ぐという面で、安保理によるコントロールは必要だという考えからである。
(6)ICCの現在扱うケースは4つある。その1つとしてスーダンのダルフール問題である。ICCが現職大統領に逮捕状を出したことで大きな波紋を呼んだ。国家主権の尊重に矛盾しており、「正義か平和か」という問題が、未だかつて多くの人を悩ませる。

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<Ⅱ.質疑応答>
Q1 なぜ莫大な資金を賭けても捕まらないのか?NATO以外に例はあるか?
A、資金の有無(国際刑事法廷の運営費)と逮捕率は別の問題。ICTY・ICTRの運営が長期化するほど人件費がかかる現状もある。
Q2 ICC創設反対国のアメリカ以外の理由は?
A、中国は伝統的に国家主権が脅かされるものには慎重な姿勢をとり、イスラエルは中東問題があるからである。
Q3 スリランカでは混合法廷は開かれるか?
A、スリランカ政府は国連の関与はシャットアウトしており、処罰でなく国民和解を計画中である。
Q4 死刑制度のある国などの軋轢は?
A、ICTRが出来た当時ルワンダとは軋轢が生じた。ICC加盟に際して、死刑制度については日本ではさほど問題にならなかった。

二村まどか
同志社大学法学部在籍中に戦争と平和の問題に関心を持たれ、卒業後渡英し London School of Economics にて国際関係学修士号を取得されました。続いて、ロンドン大学キングズカレッジ大学院戦争学研究科において博士課程を修了されます。帰国後は同志社大学での勤務を経て、2008年より現在に至るまで国連大学のサステイナビリティと平和研究所で学術研究官として御活躍されています。