【国際機構論】12月7日(火) 国連大学高等研究所客員教授 功刀達朗様にご講演頂きました。

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2010年度法政大学法学部
「国際機構論」

■ テーマ:「国際NGOと国連の協働」
■ 講師 :功刀達朗 国連大学高等研究所客員教授
■ 日時 ;2010年12月7日(火)13:30~15:00
■ 場所 :法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 407教室
■ 作成者:近藤れな 法政大学法学部国際政治学科2年

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<Ⅰ.講義概要>

1. INGOの定義と位置付け
 古今東西の宗教、倫理、政治社会思潮の伝統には、NGO活動の精神に関連したものが多い。人々が国境を超え奴隷廃止、労働者の連帯、戦時の人道的救済、平和運動を組織的に展開したのは18世紀後半からである。
 このような国際公共問題解決を目指す市民社会の運動、すなわち「国際NGO (INGO)活動」の進展には波があったが、NGOが国際会議や国際機構に恒常的に参加する契機となったのは、国連憲章にNGOの位置づけが明記されたことが重要である。
 NGOはサンフランシスコにおける国連憲章起草と交渉の最終段階においても参加、貢献している。憲章第71条に経済社会理事会(ECOSOC)は、国際団体との間に、また適当な場合には国内団体との間にも、協議するための取極めを行なうことができる、という項目があるが、これはNGOの働きかけによるものである。また「人権」についての諸項目が憲章の中に重要な位置づけを与えられたのもNGOの活動による大きな成果である。
 NGOの要件は「公共目的であること」、「専門性を有していること」、「組織力があること」、「自発・自治的に活動を行なっていること」の4つである。1995年の阪神大震災の時に使われた「ボランティア革命」「ボランティア元年」というマスメディアの造語は、自由な奉仕活動に重点を置いたため、NGO機能の活力源と云うべき専門性と組織力の重要性が広く認識・評価されないままになっているきらいがある。
 INGOの類型は、活動から分類すると、人道援助、平和構築、開発協力を実際現地にて行なう「実働型」、啓発、提言を行なう「アドボカシイ型」、NGOの連携を促進する「ネットワーク型」がある。

2. グローバル化の挑戦とシナジー
現代世界の問題群は、平和、人権、開発、環境の4つに分けられるが、これら問題群に対処するには、4つの主要アクター、すなわち政府、企業、NGO、国連、の間に創り出されるシナジーが最も効果的である。そしてそのシナジー創出はオプションでなく現代世界の至上命令であるとさえいえる。
国連はこれらの3つの主要アクターと共にシナジー創出を調整し、最大・最善化するのに最も適した位相空間にある。
 
3. 国連システムの機能的分野で発展するmulti-stakeholder schemes (MSS)
 「国連の主人公はあくまでも加盟国政府である」と云った一見現実主義的だがいかにも夢のない考えにとらわれているならば、国連がシナジー創出により人類社会に対する社会的責任を果すのを妨げる。国連は各国の利害調整もするが、地球社会に安寧、開発、環境保全等の公共財を供給しようとしている。
 実際このような作業は、エイズ、開発、環境などの分野において、1990年以降国連システム内に次々に設立された数多くの新しい多角主義機構(MSS)により行われている。

4. 平和・安全保障分野で遅れをとる国連
 INGOの長年にわたる努力のおかげで、国連は人権、開発、環境の分野で成果を挙げてきた。一方国連の第1義的目的である平和・安全保障分野では、紛争予防、軍縮などの成果はあまりない。
 対テロ戦の名の下に、自ら守備範囲を広げ軍事大国の牙城と化した安保理を変えて行くためには、INGOのアドボカシイに導かれた広範な市民グループや中小国の平和勢力が、国連運営への積極的働きかけを行い国連を変えることを期待したい。

まとめ
 INGOと国連は、地球社会全体と将来世代を視野に、ビジョンを共通するため協働し易い。その協働の方向性としては、国連は、多国間主義を超えて、多様な領域からの多様なアクターの参画と支持の相互作用を反映するグローバル・ガバナンスの中枢的プロセスそのものに進化・発展するように努力することが望まれる。

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<Ⅱ.質疑応答>
Q. 平和・安全については、国連改革や安保理改革が必要ということですか?
A. そうです。P5が取り仕切っているのは確かだが、近い将来に憲章改正は残念ながら困難でしょう。しかし平和・安全保障は多面的なもので軍事力だけのものではなく、総会やECOSOCなどの主要機関やMSSがもっと重要な役割を果たすべきです。
Q. 各国はリアリズムによる国益追求で動いており、INGOは国連と協調すればP5に左右されるようになってしまうのではないでしょうか?
A. 軍事力に頼っているアメリカや、ロシヤ、中国の国連における影響力には陰りがみえている。国連内外の民主化への潮流を支えるピープル・パワーにはもっと信をおいてよいのではないか。
Q. 日本でINGOなどがこれから広がっていくにはどうしたらいいでしょうか?
A. 政府や企業がもっと資金援助することも重要だが、INGOの貢献と活力を社会が認知し、評価するようマスメディアが協力することが重要。
Q. シナジー効果を生み出す為にどんな政策を国連は行うとよいと思いますか?
A. 国連の事業活動に民間企業やINGOが協力することを求めるだけでなく、これら組織が国連のグローバル公共政策を立案するプロセスに参画する機会をもっと増やすのがいいと思う。

<略歴>
功刀 達朗 (くぬぎ たつろう)
東京大学中退、コロンビア大学博士号。国連本部法務官、中東PKO上級法律顧問、外務省在ジュネーブ代表部公使、フランクフルト総領事、国連事務次長補(カンボジア人道援助・国連人口基金担当)を歴任。ICU教授(1990―2004)を経て、2003年から国連大学高等研究所客員教授、日本国連協会理事。