【国際機構論】2011年5月10日 今年度講義導入(長谷川教授)

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2011年度法政大学法学部
「国際機構論」

■テーマ : 「授業方法と計画の説明」「国際機構の誕生と役割と変遷」
■講 師 : 長谷川 祐弘 法政大学法学部教授
■日 時 : 2011年5月10日(水) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 407教室
■作成者 : 吉田 翔悟 法政大学法学部国際政治学科2年/坂本 早希 法学部国際政治学科2年

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<講義概要>

1.授業方法と計画の説明
(1)外部の先生方からも講義をして頂くことにより、一つの固定した見方だけでなく、色々な本を読んだり、人の話を聞いて自分なりに理解を深めたりすることで、自分なりの考え方を養って欲しい。
(2)バートランド=ラッセルが繰り返し強調していることであるが、今起こっていることに対する見方や見解というのは、人によって色々と変わるものである。
(3)「ウェストファリア体制における国家主権主義の下、現在、各々の国は、他国からのいかなる束縛を受けようとせずに、自由に動いている。では、どうして主権国家は国際機関を設立するのだろうか。国連、WTO、ICC、あらゆる国際機関があるが、それらは、主権国家の行動を秩序正しく、理念、原則に基づいて、行動するように働きかける。即ち、国際機関は主権国家をコントロールし得る存在である。にもかかわらず主権国家はなぜ、そのような、自分を縛る国際機関を設立するのだろうか。また、今後国際機関はどうなっていくのか。」ということを頭の中に入れて勉強して欲しい。
(4)「グローバリゼーションが進展する過程に於いて、国家を中心としたウェストファリア主権国家体系から、地球規模の課題に対処し人類全体の安全と生活環境を向上させる為に国際機構がどのような役割を実際に果たしてきているか学ぶこと」、そして「国連を始めとする国際機構がグローバルな課題が問題に対してどのような役割を果たし、解決策を見出し実践しているか、特に創設60年を経て改革論議が活発に行われている国際連合に焦点を当て、安全保障理事会やほかの機構の役割、構造、意志決定、運営制度、活動方法、そして国際公務員として勤務しているスタッフの役割を検討すること」が、この授業の目的である。
(5)出席し、且つ授業でコメントをした方は、上限10ポイントまで加算する。つまり、毎回授業に出て、そこで質問をした方は、ペーパーテストで同じ平均点だった方よりも有利となる。
(6)前期では、「国際機関の誕生と成長」、「法的根源」、「国際連合の前身に、国際連盟というものがあったが、どうしてこれは崩壊したのか」、そして、「国連改革が必要であると言われてきているが、そもそも安保理や総会の役割とは何であるか」。あるいは、「国際機関の資金と人的管理はどの様に行われているか」、「平和維持活動や平和構築活動などに、国連機関、あるいは国際機関がどの様な役割を果たしているか」ということを話す。
(7)後期では、国連の専門機関や下部機関の経済社会分野での活動や、人権擁護や人道支援の為の国際機関の役割について話す。

2.国際機関の定義
 国際機関とは、次の2つに大きく定義される。
(1)主権国家同士が条約によって設立した、国際的に独立した機関(国連は、憲章第101条に基づいて、加盟国政府から独立した存在であると規定されている)。
(2)特定の目的の為に、国際的に活動する団体(この定義に基づけば、SONYなどの多国籍企業も含まれる)。

3.国際機関の3つのraison d’etre
(1)国際機関は日本などの主権国家の外交の場として使われる。毎年9月から、ニューヨークでは国連総会が開かれ各国大使によって話合いが行われる。
(2)国際機関としての国連を通じて行う外交の場としては、例えばCOP15、16などの世界規模での協力が必要な問題が話し合われる。
(3)国際機構の為の外交の場としては、国際機構をさらに効率的なものにする、理想に近づけるようにするために外交を行っている。

4.国際機構の役割
国際機構の役割としては、国際的行動の立案と実施、発展途上国のための活動、国際基準機構、規範の設定と遵守、国際的な理念と正義の実現が上げられる。中でも、重要なものが国際基準機構、規範の設定と遵守、国際的な理念と正義の実現、の3つである。国際機構は、3月に起こった東日本大地震による原発被害の様な事態において、唯一の国際的な基準を作り、その遵守のための規範などを管轄できる機関である。いわば、なにか問題が起こった時に世界や未来に被害が拡大しないよう、ルールをつくり方向を決めることができる機関である。

5.現実主義者の見た国連の役割
現実主義者にとって国連とは、大国の手段(Facilitator of Interstate Cooperation)であり、国際社会のファシリテーター、または主権国家共同体(EUなど)の知事のような存在である。また、国際機構は唯一の正当化する組織である。例えば、内戦国に武力介入などを起こす場合においては国連の承認を得ることが、その行動を国際社会で正当化する裏付けになる。

6.どうして国際機関は存在するか
(1)歴史的経緯からみると、戦争が国際機関を作ったと最上先生は示している。しかし、理論的な思考では、国と国が共存していく場合において国際機関が必要であるとし、最終的に世界が一つの国になれば良いと考えた。機能論としては、国同士が共存していく中で共通のルールが必要不可欠であり、そのルールの決定機関としての役割を担っている。また、国際機関は世界に公正性をもつ唯一の機関でもある。
(2)最上先生は国際機関をPenultimateとし、連邦主義でも現実主義的なものでもない究極的な一歩手前の機関であるとした。
(3)Global Governance論では、世界政府を実現させることは難しいだろうが国際規範は必要であるとし、その担い手としての役割をもたせた。また、国際機関は空間を超えた世界的で普遍的なものでもある。

7.国際機関設立の歴史的背景
(1)13~17世紀に都市間での通商活動がはじまった。その時人々は貿易によって、平和(Peace)、友好(Friendship)をもたらしていた。
(2)17~18世紀、ウェストファリア条約によってそれまで、権力が特定の人物にあった状態から民主主義が誕生し、権力がその国自体にあるようになり、政治経済活動が国家内から国家間へ進展した。
(3)19世紀、その様な状況を受けて世界には国際河川委員会、万国電信連合、万国郵便連合、国際鉄道連合、人道支援の専門として国際赤十字委員会などができた。また、1814年主権国家間の取り決めとして戦争における人権侵害を禁止するなどを含んだ、ハーグ条約を取り決めた。
(4)国際連盟は、ウィルソン米大統領の平和14原則をきっかけとして創設された。その規約はヴェルサイユ条約第1編に記されており、加盟国は当初の42カ国から60カ国となった。
(5)国際連盟の構造は最高意思決定機関である総会(Assembly)、フランス、イタリア、日本、イギリスからなる理事会(Council)、事務局(Secretariat)で構成された。総会は加盟国の対等な意思決定参加を約束されていた。その他、専門機関として常設国際司法裁判所(ICJ)と国際労働機関(ILO)があった。

8.国際連盟の崩壊と原因
(1)国際連盟崩壊の理由は、アメリカの大国の不在、実質的な権限は理事会が握っていたこと、連盟所属の軍は存在せず権限は経済制裁にとどまり、平和を侵す行為に対して効果的な措置をとることができなかった。
(2)崩壊の経緯は、1933年に日本とドイツが脱退し1937年にはイタリアが脱退、その後1925年~30年代において、コスタリカやブラジル、中南米諸国が次々と脱退した。また、ソビエト連邦は1943年に加盟し1939年にフィンランドを侵略したことによって除名された。

8.国際連合の設立
国際連合(the United Nations)はモスクワ会議、ダンバートン会議、ヤルタ会議の3つの国際準備会議を
経て、1945年4月~6月に行われたサンフランシスコ国連創設会議において「総合国際機構」として設立された。