
長谷川祐弘教授は、TED Talkにおいて、現在の国際社会が直面する混沌とした状況は、1648年のウェストファリア条約に由来する国家主権中心の考え方、すなわち「我ら国家(We the States)」という発想に深く根ざしていると指摘した。そのうえで、国連憲章の冒頭に掲げられた「我ら人民(We the Peoples)」の理念に立ち返り、国際社会を真に人間中心の共同体へと変革していく必要があると訴えた。
長谷川氏は、科学技術が急速に進歩しているにもかかわらず、世界各地で紛争や人道危機が絶えない現状に触れ、現行の国連がこうした悲劇を十分に防ぐことができていない背景には、国連そのものの構造的限界があると論じた。現在の国連は、実質的には国家を主体とする「国家による国連」であり、特に一部の大国やその指導者の意向に左右されやすい仕組みとなっている。この構造が、人間中心の国際協力を阻害し、地球規模の課題への効果的な対応を困難にしていると説明した。
また、長谷川氏は、自身がカンボジア、ソマリア、ルワンダ、東ティモールなどで経験した紛争地での活動を踏まえ、国家の利益が優先される国際秩序のもとでは、現場で苦しむ人々の声が十分に反映されにくいことを強調した。こうした経験から、国連は単なる国家間協議の場にとどまるのではなく、市民一人ひとりの声が反映される「市民による国連」へと進化すべきであると述べた。
さらに、長谷川氏は、日本の明治維新に関する独自の分析にも触れながら、大きな制度変革を実現するためには、既存の枠組みを超えて未来を構想する力が不可欠であると指摘した。そして、「新しい国連」の実現に向けて、国際社会には構造改革への明確な意思と、それを導く強力なリーダーシップが求められると訴えた。
講演の結びにおいて、長谷川氏は、「We the States」から「We the Peoples」への転換は、単なる制度改革にとどまらず、人類が共有すべき価値観そのものの変革であると強調した。国家の論理を超え、人々の尊厳と安全を中心に据えた国際秩序を築くことこそが、今日の世界に求められている課題であると訴え、聴衆に深い問いを投げかけた。
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(レポーター 井門孝紀)