チリツィ・マルワラ国連大学学長(国連事務次長)は、国連憲章の理念が国連という枠組みを超えて人類社会全体に及ぶことを強調し、日本が長年にわたり多国間主義と平和的対話を支えてきた事実を称えた。国連創設80年とUNU創立50年の節目にあたり、天皇皇后両陛下の国連大学本部ご臨席にも触れ、UNUが世界12か国13研究所のネットワークへ成長した歩みを紹介。学長就任後は日本全国47都道府県で市民と対話する目標を掲げ、すでに24都道府県で講義を行ったと述べた。最後に、日本政府・国会・学術界・経済界、そして「国連の友人」への謝意を表し、平和・尊厳・平等・持続可能な発展に向けた絆の強化を呼びかけた。
レポーター:井門孝紀
この会議のより詳細な内容はこちらからご覧ください。
発言全文
ご来賓の皆様、本日このフォーラムでお話しできることを大変光栄に思う。本年、国際連合は創設80周年を迎える。まず、衆議院議長閣下に対し、この重要な会合を主催してくださったこと、そしてご招待いただいたことに深く感謝申し上げる。
この80年間、国際連合は人類が直面してきた最大の試練を乗り越える上で大きな役割を果たしてきた。私は国連憲章を読むたびに、戦争の廃墟の中から平和のために尽くすことを誓った人々の崇高な決意に思いを馳せ、その遺産を今日においても引き継ぐ責任を改めて感じる。
国連憲章の理念は、国連という枠組みを超えて広く人類社会に及ぶものであり、その精神と原則を推進していく責務は、我々一人ひとりにある。日本は長年にわたり、国連、そして多国間主義と平和的対話の擁護者として、共通の課題に対する解決策を模索してきた。日本は国連の通常予算における第3位の拠出国でありながら、その貢献は財政的支援にとどまらない。
また、日本出身の国連職員や国際機関の指導者たちもその精神を体現している。たとえば、国連軍縮問題担当上級代表の中満泉氏、国連事務次長補でUNDP危機局長の野田祥子氏、そして国際司法裁判所の岩澤雄司判事、国際刑事裁判所の赤根智子裁判長などである。彼女・彼らの尽力は、「平和とは受動的な状態ではなく、包摂的な多国間主義と先駆的なリーダーシップによって築かれるものである」という事実を私たちに思い起こさせる。
国連が創設80周年を迎える本年、我々国連大学も創立50周年を迎えた。私はこの大学の学長として奉職できることを大変光栄に思う。先月、天皇皇后両陛下におかれては、この節目を記念して国連大学本部にご臨席賜り、国会議員の皆様にもご出席いただいた。この出来事は、日本が長年にわたり示してきた国際平和、信頼、持続可能な発展への深い献身を象徴するものである。
日本政府が50年以上前、国連大学設立のために基金と本部施設を寄贈してくださったことにより、1975年9月、国連大学はその学術活動を正式に開始することができた。50年を経た現在、国連大学は東アジアに本部を置く唯一の国連機関として、世界12か国に13の研究所を有し、人類の喫緊の課題解決に取り組む国際的ネットワークへと発展している。
2023年に私が学長に就任して以来、日本政府、各大臣、国会議員、学術界、経済界、そして多くの「国連の友人」の皆様から温かいご支援を賜っていることに、深く感謝している。私は日本全国47都道府県すべてを訪問し、公開講義を行い、地域社会と直接対話することを目標としている。これまでにすでに24都道府県を訪問した。どこへ行っても、人々の間には共通する「調和」への志と、人と自然、そして未来の世代への深い責任感が感じられた。国連大学は東京のみならず、日本全国で活動し、国連の理念を人々により身近なものとして伝えていくことが重要であると考えている。
最後に、日本の国会に対し、この記念行事へのご招待に改めて感謝申し上げるとともに、日本政府による国連システムへの長年の支援と協力関係に深く感謝する。今後の80年も、平和・尊厳・平等・持続可能な発展という共通の目標に向けて、我々の絆が一層強まることを願う。
