【国際機構論】2009年11月17日 長谷川祐弘法政大学教授

20091117001
2009年度法政大学法学部
「国際機構論」

■テーマ : 「国連改革とONE  UNプログラム」
■講 師 : 長谷川 祐弘 氏 法政大学法学部教授
■日 時 : 2009年11月17日(火) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 富士見校舎 309教室
■作成者 : 木村 亮太 法政大学法学部国際政治学科2年

****************************************<Ⅰ.講義概要>

1.はじめに
国連のシステムの中で、どのようにして発展途上国の開発と国家構築を行っていけるかということについて、CCA、UNDAF、PD、ISFというプログラムを取り上げて、理論的に講義をしたいと思う。まずは、国家構築に向けての国連の援助活動統合への道のりという概念から説明いたしましょう。
(1)共同国別調査などと訳されますがCommon Country Assessment(CCA)とは、世界銀行などを含めた国連の関係機関が現地にてその国の開発の状況や可能性を評価することである。
(2)United Nations Development Assistance Framework(UNDAF)、すなわち国連開発援助枠組みとは、CCAで認識されたニーズに基づいて国連の開発援助の枠組みを決めることである。
(3)Programme and Project Document(PD)とは、UNDAFで決めた枠組みを具体的にプログラムあるいはプロジェクト・ベースで実施する。
(4)Integrate Strategic Framework(ISF)、すなわち統合戦略枠組みとは、今年の6月にできたもので、今日、特にアフリカなどにおいて政治的さらには治安問題について、開発機構と人道支援機構が一緒に活動しなければならないという問題意識から生まれた枠組みである。

2.国連開発活動とONE  UNプログラム
(1)国連統合への第一歩として、1997年に当時の事務総長であったコフィ・アナン氏が提案したことが二つある。1つ目は、ニューヨークの国連本部ベースで行う、UNDG(United Nations Development Group:国連開発グループ)の設立である。2つ目が、現地におけるUNDAFの導入である。様々な機関がばらばらに活動するのではなく、一つになってやるべきであるという考えがある。
(2)2005年世界首脳サミットで成果文書が出される。内容は、平和と安全、人権の強化、開発という三つの分野において国際社会は協力していくべきだとした。では開発の分野ではどうしたらいいのだろうか。述べられたことは全部で4点ある。
 効果的、効率的、首尾一貫、調整されたUNの現地での活動
 UN常駐代表のより強固な権限
 適切な権限、手段、説明責任Accountability
 共通の運営意識
(3)国連改革とONE UNプログラムを作るために、2006年に開発・人道支援・環境分野の国連システム一貫性に関するハイレベル・パネル報告書”Delivering as One”という戦略を作った。そして、8カ国でOne UNプログラムを試験実施した。実施8カ国は、アルバニア、カーボヴェルデ、モザンビーク、パキスタン、ルワンダ、タンザニア、ウルグアイ、ベトナムである。ひとつのプログラム、ひとつの予算、ひとつのオフィス、ひとつのリーダーというのを基本にして実施。試験実施国以外の国では、CCA/UNDAFの強化を行っている。

3.CCAとは何か
(1)1つ目に重要なのは、国のニーズは何なのかというのを知るために、すべての機関が一緒になって、国単位の国家開発の評価をするということである。そして、国連の援助を決めるための必要事項として、何かをしようというときにみんなが共通意識を持つことが重要である。日本は単民族国家なので、日本にいると良く分からないが、これは非常に重要なことである。
(2)CCAの主な役割とは、UNDAFを行うにあたっての基本的な土台である。
・評価と分析 Assessment and analysis
・すべての機関の参加 Participation of UN system
・現地の国家機関の参加 Full involvement of government and National Institution
・政策協議 CCA forum for national policy debate
・現地国の主導 Nationally driven exercise
(3)では、UNDAFの主要要素とは何か。
・戦略的な文書 Strategic Document for UN
・現地主義 Country Driven approved by UNCT
・現地政府の同意 Government Agreement
・ 先行主義 Completed before programmes and projects Assessmentと現地の人との話し合いを行ってから、新しいプロジェクトを行うという考え。
・総括的 Basic for UN collaboration at country level現地の国のことを考えて、総括的にニーズを考えてプロジェクトを行う。
(4)では国連の開発プログラミング・サイクルを見ていきたいと思う。最初に、UNDAFがCCAを行いDevelopment Priorityを決定する。そして、どういう枠組みを作るかを考えて、その後Country Programmeを作る。CPを作った後に、Project Documentに移るのである。プロジェクトにはお金がかかり、その結果ダムや裁判所のようなアウトプットが出来るのである。
(5)CCAやUNDAFのパートナーは何であろうか。プロジェクトを行うにあたって、現地の政府の人、さらには国連システムを入れなければならない。また、現地のNGOといったCivil Societyが一緒になって実施するのが大事である。他には、Breton Woods(世銀とIMF)やPrivate SectorやDonorsも入れなければならない。これらが一緒になってその国のニーズに対するAssessmentをしなければいけない。
(6)CCAの作業内容はどのようなものか。まず、国家開発のための必要条件と可能性の評価である。どのようなことをしなければ、開発が出来ないのかを明らかにする。次に大事なのがExternal Inputである。自分たちだけで考えているのではなく、開発目標(例、MDGs)を反映する。最後に優先順位を確立し、各々の人が問題意識を持っている中で、何が優先されるのかを考える。
(7)CCAの使用方法はどうなっているか。
・政策 Policy analysis
・共同目標へのアドヴォカシー Advocacy for common goal
・情報共有 Preparation of other coordination
・評価 Monitoring and evaluation
(8)CCAの効果は、CCAのおかげで様々な主体が共に行動をとることが出来ることである。またCCAのプロセスを見ていきたいと思う。1.準備をする。2.情報とデータを共同で収集する。3.分析と評価を行う。4.CCAの報告書を作成。5.開発支援プログラム(UNDAF)作成準備。
(9)ではこれらの関係を見ていくと、まずCCAからUNDAFへと落ちる。そして、UNDAFを基にしてUN Country Programmes/Projectsを作る。ここには、共通の領域、共通の問題意識、共通のPriorityが確立されてなければならない。そして、Collaborative Programming Activitiesを行うのである。ちなみに、今はCollaborativeではなくてIntegratedが主に使用されている。
(10)評価と分析を細かく見ていく。まず、外からInternational Conferences and Conventionsにより価値観などが、内からNational Priorities and Needsが働きかけられる。レベル1でお互いに分析し何を行っていくのかをUNDAFで決めるのである。 UNDAFが現地で行うときにプラスして緊急的な、人道的なものの必要性が出てくる。これをCAP(Consolidated Appear)といい、UNDAFなどとは別に行う必要性がある。

4.UNDAFとは何か
(1)UNDAFとは戦略的な行動計画の枠組みである。戦略的とは、すべての機関が統一した目的に向かって行動をすることである。UNDAFは国連組織の統一した目的設定なのである。またCountry Levelで行われるUNDAFで大事なのは以下の4点である。
・成果に注目 Focus on results orientation
・統一した目的 Unity of purpose
・協力の増大 Increased collaboration
・効率的な資源の使用 Efficient use of resources
(2)UNDAF計画書の中身はどのようになっているのか。
・要旨 Executive and summary
・必要性 Rationale
・目標と目的 Goals and objectives
・共同事業戦略 Cooperation strategies
・評価 Follow-up and review
・財源・予算 Programme resources framework
・条約、法的根拠の確立

5.Project Documentについて
(1)第一にJustificationを確認する。Justificationとは必要条件のことである。なぜこれを行うのかという根拠を明確にする必要がある。
(2)次にSituation analysisを行う。つまり分析を行うのである。そして次にこれらが、戦略的に行われるようにする。
 目的 Development Objective
 政策的な枠組み Policy framework
 受益者は誰であるか Target beneficiaries
 パートナーは誰か Partnership modality
 援助の戦略 Assistance Strategy
 リスク(失敗)を明確に Risks
(3)その後のプロセスは以下にあげる通りである。
 結果や効果はどうなるのか Results framework
 どのようにマネージメントしていくのか Project supervision and management
 モニターと評価 Evaluation and monitoring
 法的根拠 Legal context
 予算 Project budget
これらのことを記していなければならなかったのがPDであり、3年ほど前までの主流であった。
(4)次にISF(Integrated Strategic Framework)についてである。アフリカのような紛争の絶えない国で、どのように国連は援助を行っていくのか、今までの経済、社会、緊急援助を統合するのと同時に、政治治安分野の活動も全部一緒に行うというのが、ISFの基本的な考えである。今、アメリカもアフガニスタンでこれを行っている。ISFの意図とは、持続可能な平和と民主主義国家の構築のために統合された戦略の作成と思考を行うことである。
(5)国連の新たな目的と役割というのは、複合した目的(政府、経済、社会の変革など)を可能にするような、多目的な活動を行っている。また、機能というものが国家構築の役割も担い、難民への人道援助なども同時に行っていくことも重要である。そして最後に、治安部門と民生部門の統合された活動がある。これら3点が新たな国連の目的と役割である。

6.まとめ
(1)受入国の為になるような援助を行うには、組織的にやると良いというのを今日は説明してきた。そのためには、CCAやUNDAFを行っていくべきである。ここでは、現地でのニーズというのを、自分たちだけで決めるのではなく、そこに関わっているすべての人々、特に現地の政府やNGOが、一緒になって決めるべきである。また、人権を含めた治安分野も今までの統合に加えて、一緒に総括的に行うのがISFである。
(2)最後に私が言いたい問題点は、世界というのは非常に多くの、異なる社会や文化や宗教から成り立っている。そのため、価値観が異なるのである。このように異なる価値観の人が集まって働いている国際機関は、何をしていくべきなのだろうか。独善的に決めるのではなく、みんなで協議して決めていかなければならないだろう。
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<Ⅱ.質疑応答>

Q.国連の中で統合的な枠組みを持ったプロジェクトが行われているが、では日本が一国家として国連の活動にどのように貢献できるのか。
A.非常に難しい問題である。アフガニスタンの場合では、日本がお金を出す場合、その金は国民の税金から賄っているのだから、どのように使うかは日本が決定することになってしまうため、現地や国連の人と話す必要はないとなってしまうのである。今までのように日本が、個々の国連機関にお金を拠出するよりも、それ以前に、国連などと一緒になってCCAなどを行い、現地のニーズをしっかり把握してから行うべきである。例えばスペインは先日7億ドルをUNDPに出し、南アメリカに使ってくれとした。ここでいえるのは、一つのエージェンシーにあげるよりも、現地でCCAやUNDAFを行い、組織的にニーズを把握して援助を実行していくべきだと思う。