【国際機構論】2009年12月15日(火) UNDG 中村 俊裕様

2009121501
2009年度法政大学法学部
「国際機構論」

■テーマ : 「シエラレオネにおける国連-国連改革の文脈から-」
■講 師 : 中村 俊裕 氏 UNDG国連開発事業調整室政策専門官
■日 時 : 2009年12月15日(火) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 富士見坂校舎 305教室
■作成者 : 中村 哲 法政大学法学部国際政治学科3年

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<Ⅰ.講義概要>

1.国連を取り巻く環境の変化
(1)援助「産業」における「競争」の激化:国連を援助産業として見た時に国連に入ってくるODAの額は相対的に減少しており、国連の援助産業におけるマーケットシェアは縮小している。これまでのように黙っていても国連にお金が流れてくるという事は無い。
(2)パリ宣言:2005年に採択されたパリ宣言を契機に、受け入れ政府国がさらにリーダーシップを発揮し、オーナーシップを持って開発のプロセスを進めてきている。
(3)説明責任の強化要求:アメリカ共和党政権下での国連のパフォーマンス、説明責任対する姿勢などに見られるように、国連に対する監視の目が厳しくなっている。
(4)経済危機:近年の経済危機によりODAの30~40%が減るという算出もある。
(5)国家を超える問題:環境問題など、国境を越える問題に対する意識が高まっている。
(6)社会企業家の台頭:国家から国家という伝統的ODAの枠組みを超えたアプローチで社会問題を解決しようとする「社会起業家」が増えてきている。

2.冷戦後の国連の役割とUNDG
冷戦後、世界では紛争が増え、それとともに平和維持活動が増えた。そして、平和維持活動が行われる国では、開発、人道、政治、安全保障といった、国連の4つのマンデートを同時に行使するような多面的な国連の介入が増えている。
この4つのマンデートを同時にバランスよく遂行していくのは難しい。多面的支援を行うということは、文化や内部ルールの違う、非常に多くの国連機関が協力しあいながら支援を行うという必要が出てくるからだ。 
こうした背景が国連開発グループの創設に繋がった。現在では主にフィールドで開発の活動を行う32の国連機関参加している。

3.UNDGを支援する事務局の役割を果たすDOCO
 UNDGは各機関のトップで構成されており、このような人達が効果的に国連改革を推し進められるようにDOCOという事務局的役割をはたす部署が存在する。私はこのDOCOに所属している。

DOCOの主な役割としては以下がある。
(1)プログラミング:国レベルで国連がどのようにニーズを調査し戦略作りをするのかを定めた、CCA/UNDAFのガイダンス作りなどを行っている。
(2)オペレーション:計画を遂行するための、財務システムや調達方法といったオペレーションを統合するための政策作りをしている。
(3)Resident Coordination system :「国連の長」に当たる駐在調整官を強化していく。
(4)Crisis and Post Conflict:紛争後国では複雑な状況にあるため、紛争後に対応するような支援を行っている。

また政策作りをニューヨークで行うだけでなく、実際にフィールドに出張し、レジデントコーディネーターに対し支援も行っている。

4.Delivering as One
 Delivering as Oneとは、1つのプログラム、1つのレジデントコーディネーター、1つの財政の流れ、1つのオフィス、という4つの要素を中心とした改革である。まず8カ国(ベトナム、パプアニューギニア、ウルグアイ、パキスタン、タンザニア、モザンビーク、ルワンダ、カーボベルデ)が初めて実施し、現在13カ国が参加している。

5.本部からの支援を強化する7つのワークストリーム
 運営部分のような後方部分の強化が統合には不可欠という認識から、現在DOCOとして7つのワークストリームを作っている。
(1)UN programme
(2)Common Service and Harmonize Business Practice
(3)Joint Communication
(4)Common Promise
(5)Joint resource mobilization
(6)Common budgetary framework
(7)Organizational change

6.もうひとつの取り組み-Agency Funds and Programmeと国連事務局の統合
国連改革は、「Agency, Funds and Programmes」を超えて、PKO局や政務局といった巨額の予算を擁する国連事務局を統合しないと、本当の改革とは呼べない。2008年12月に潘基文国連事務総長は、「Agency, Funds and Programmes」と事務局を、フィールドと本部レベルで統合するようにという通知を出した。これは国連改革の歴史の中でも重要な出来事である。
それ以来、「統合された戦略枠組み(ISF)」という政策が出来、フィールドレベルでその執行が行われてきている。このような多面的な活動の統合の基本方針を執行する国は現在18カ国に及び、これらの国ではミッションとカントリーチーム(UNCT)で一緒に計画が行われている。

7.シエラレオネでのISF
 シエラレオネではドイツ人のERSG (Executive Representative of the Secretary-General)がレジデントコーディネーター(RC)も勤める。戦略計画室という部署がERSGの真下に作られ、双方の橋渡しを実現し、ISFのプロセスを推し進めた。

8.シエラレオネ国連ファミリーのジョイント・ビジョン(2009-2012)
 ERSGは就任後、5つの優先事項を直接大統領と話し合い作成した。
(1)Peace consolidationは大枠の目的にし、
(2)農村部を国の経済へ取り込むこと。
(3)公衆衛生、医療の強化をする。
(4)若者の経済社会統合を進める。シエラレオネでは約10年間の紛争の間、教育を受けることが出来なかったために、若者の幅を15歳から35歳に広げ、失われた10年間を取り戻すべく職業支援をしている。
(5)政府のガバナンスの改革をする。
以上の5つを優先順位として細かくプランを作った。これらはISFの要素が取り入れられており、UNCTとミッションの活動が双方カバーされている。また本編の長さが7ページと簡潔に出来ている。5つの優先事項には21のプログラムが明記されている。

9.オペレーション分野の統合
ERSGは戦略分野だけでなく、オペレーションサイドの統合も行った。地域事務所の統合の一環で国内の8か所に地域事務所を作り、機関ごとに責任を分担し地方政府と共に計画作り、モニターリングを行っている。国連ラジオはシエラレオネでは最も大きな情報の発信源であったため、ミッションに残し国連全体でツールとして全面的に使用した。国連スタッフ向けの医療サービスはこれまでエージェンシーごとに各自で行っていたものを統合した。またヘリコプターや車の修理、パトロールなどの安全面の統合もした。さらに、マルチドナー信託基金を設立し、資金が効果的に国連機関に流れるようにした。この資金は5つの優先事項に使われることになる。

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<Ⅱ.質疑応答>

1.文化の違いによる対処
Q.中村さんはアジアとアフリカで活動されましたが国によって国連の行動や、受け入れ国の対処の仕方は違いましたか?
A.シエラレオネは人間開発指数が最も低い国でもある。中所得国のインドネシアなどと比べると簡単な活動であっても、さまざまな制約でなかなか思うように進むことがなかった。

2.統合について
Q.組織を統合する上で、組織として一体感を出すために工夫したことはありますか?
A.そこが弱みの一つであり、採用やキャリアも違うためカルチャーショックを受けることもある。DPKOやエージェンシーは活動の文化の違いもあるためその様な取り組みはあまりない。今後は文化的統合も課題になってくるだろう。

3.国連外との連携
Q.国連機関以外の機関との連携や関係を教えてください。
A.国連外との連携が簡単な場合もあり、国連の枠組みを超えても同じ関心や支援を行っている機関と共同に作業しようとしているが、実際に具体化することは困難でもある。

中村俊裕 (なかむら としひろ)

京都大学法学部卒。ロンドン大学政治経済学院(LSE)比較政治学修士。大学院卒業後、UNHCRジュネーブ本部インターンなどを経て、経営コンサルティング会社マッキンゼーで働く。その後、UNDP東チモール事務所(プログラムオフィサー)、インドネシア事務所(駐在代表補佐)、シエラレオネでUNDP(駐在代表補佐)などを経て2009年4月よりニューヨークの国連開発グループに勤務し、紛争後の国における国連改革に従事する。2010年4月より休職し、自身で立ち上げた、テクノロジーを開発援助に取り組むソーシャル・ベンチャー、Kopernikに従事する。