【研修旅行】8月30日 東ティモールツアー・ゼミ内勉強会

本日は、国連フォーラム主催の東ティモールスタディツアーに参加するゼミ生の中で法政大学にて勉強会を行いました。勉強会では事前に参考文献を指定し、それを軸としながら東ティモールについて各自が調査、研究したことをプレゼン形式で発表しました。発表は歴史、平和構築、政治経済、社会・医療、教育・宗教・文化、国際関係の6つに分けて行われ、各発表後はゼミ生内で質疑応答やディスカッションを通じて東ティモールに関する見識を深めたうえでツアーでの学習で持つべき問題意識や疑問点を明らかにしました。(山本)

<議事録>

まず鈴木が第二次世界大戦以前の東ティモールの歴史を述べた。東ティモールは白檀の産地であり、それを狙うポルトガルとオランダの植民地争いの中に巻き込まれてしまった事、また第二次世界大戦下で日本軍が占領した過去があることがあり、占領下で従軍慰安婦の問題が起きていたことを発表した。

質疑応答では、その慰安婦問題の問題などがある中で、日本に対して東ティモールの人々はどのような感情をもっているのかという疑問点が上がった。

続いて臼井が第二次世界大戦以降の東ティモール独立前後までの歴史とナショナリズムについて述べた。東ティモールに存在する「ナショナリズム」は歴史が作ったものであり、植民地民族主義がナショナリズムに結びつき独立に結びついたのだ。その一方で東ティモールの文化は根底にあるポロネシア文化とポルトガル文化が結びついたものであり、抵抗と享受のバランスがうまく取れていると述べた。
東ティモールの独立の機運が高まったのは、74年にポルトガルが脱植民地主義政策をとってからであるが、75年にフレテリンが独立宣言をしたもののその後インドネシア軍が介入してきてしまい東ティモールは混乱の時代を迎えた。独立の是非を問う住民投票の結果01年に東ティモールは独立を果たすことができた。
だが06年に東地区と西地区の給料待遇の差をもとに暴動が起こった。その原因の一つに国連の職員の撤退が早過ぎた為だとされ、今後東ティモールの国連職員をいつ頃完全撤退するのかが一つの問題に上がっている。

また質疑応答の中で、過去の争いの中で戦争犯罪をした者が東ティモールに帰国した場合、そのものを法で裁くかあるいは和解をするか、つまり正義と和解のどちらを優先するのかという疑問が上がった。

 続いて高橋が東ティモールにおける正当な選挙の重要性を述べた。東ティモールは大統領制の国であり、選挙は大統領選挙、議員選挙、村長選挙の3つに分けることができる。だが当初東ティモールの住民の中でちゃんと選挙の仕組みを理解している住民は有権者の5%ほどしかなく、選挙の仕組みをどう有権者に伝えていかなくてはならないかが問題である。また今後の課題として、現在東ティモールの行政は中央政府と、伝統的な村の有力者との二重構造となっているため、それをどう是正していくかというものがある。

 質疑応答として、現在政権を取っている東ティモール独立革命戦線(フレテリン)は当初社会主義を掲げており、現在は中道左派ということになっているが、社会主義的な政策を具体的に現在とっているのかどうか、また他の政党はどのような立場をとっているのかどうか、さらに有権者がどのように政党の主張を理解しているのかどうかというような疑問点が上がった。

 続いて中本さんが東ティモールにおけるDDRについて述べた。東ティモールでは紛争が終了した後、どう元兵士たちを社会復帰させていくかが問題となった。そこで東ティモールには「リスペクト」という元兵士たちの再雇用プログラムが存在する。これは農業改革、インフラの復旧、職業訓練と小規模事業の設立が目的に掲げられ、現地の人々のニーズにこたえた形の支援を行っている。兵士の中には障害を抱え、社会復帰が難しい場合がある。そのような場合にはその家族に対して職業訓練をし、金銭援助をするべきだと述べた。

 東ティモールの経済について平田が述べた。東ティモールではポルトガル領時代は自給自足の貧困国であったが、インドネシア統治下になりインフラの整備が整うようになった。暴動後の06年以降経済成長が始まり、08年には経済成長率が12%という高い水準になった。とはいえ東ティモールの歳入のほとんどが先進国からの援助であり、石油資源は豊富だが石油で出た利益を使用することを制限している。東ティモールで有名なのはフェアトレードコーヒーであり、日本の一部の企業ではそれを積極的に取り入れている。

 質疑応答として、オーストラリアとの石油利権についての話が出た。現在東ティモールとオーストラリアの間のティモール海で領海権問題が起こっており、「ティモールギャップ」といわれている。現在はJPDAと言われる共同石油開発エリアというものがあり、そこでとれた石油の90%はティモールの利益とされている。この領海権問題をどう解決に結びつけるかが今後の課題である。

 続いて田口が教育・言語について述べた。99年以降破壊された学校の修復作業が行われておりUNICEFの久木田氏を中心にして100の学校プロジェクトというものが行われた。現在東ティモールでは教育に力を多く入れており06には国家予算の30%が教育分野への投資である。

 初等教育就学率も94%となっているが、問題として学校の絶対的不足が挙げられる。また独立以降、学校ではテトゥン語が公用語として教えられ、若い世代が話しているインドネシア語を排除するようになった。その為先生の人数の不足も問題点であげられ、インドネシア時代からの教育資格保持者や大学生が教えている状態であり、教育の質の問題もある。

 また質疑応答の中で、就学率は94%だが就業率が低いという問題があがった。その原因として家庭が貧しすぎて学校にいけない場合や、学校に行くまでの道のりが悪過ぎて通えないという問題が上がっている。つまりただ学校の建設を援助するだけでは問題の解決にならない。

 東ティモールの文化宗教について伊藤が述べた。宗教はキリスト教のカトリックが多いのであるが、年を追うごとにカトリックの信者は増加傾向にある。昔はアニミズムが多かったのであるが、インドネシア統治下で一神教の宗教に所属しなくてはいけないとの政策で、昔のポルトガルからの名残でキリスト教に改宗する人が増えたためだ。
 東ティモールには結婚や葬式に独特の文化があるが、これは昔からある文化とポルトガル領時代の文化が融合されて出来た形であり、東ティモールの文化は二つの文化の融和によって成り立っていると言える。

 続いて光達が社会・医療について述べた。出生率に関して、東ティモールは7.7%でありとても高い水準である。その為人口増加率も3・9%という水準であるが、同時に子供の死亡率、産婦の死亡率が高いという問題がある。生まれてくる子供も低体重低身長の子供が多い。

 続いてメディアに関して述べたが、ここでも言語の問題がある。ラジオではテトゥン語・ポルトガル語・インドネシア語の3つの言語を使うが、テレビではテトゥン語の放送しか行われていない。一方で東ティモールは新聞があまり普及していない。その原因は新聞が比較的高価だということだ。

 環境面に関して、東ティモールではまだ環境保全に関する意識が低く、代替エネルギーの普及も遅れている。今後これらの普及と国民の環境保全への意識を高めていく活動を行っていかなくてはならない。

 A.S.E.A.N.・日本に対する外交を山本が述べた。東ティモールが一番A.S.E.A.N.の中で重視していかなくてはいけない国はインドネシアである。もともとインドネシアから独立したのだが、インドネシアは最大の貿易国になりえるのである。
 また東ティモールは将来的にA.S.E.A.N.への加盟を目指している。だがミャンマーが反対しており、東ティモールにはA.S.E.A.N.の職員になることが出来る英語教育を受けている人材が少ないという問題がある。
 日本は東ティモールに対して今までJICAを中心にUNDPを通した援助を続けており、無償援助の形で援助を行っている。だがその後の質疑の中で、一度に多くの援助金を渡すことができる円借款の形による援助のほうに今後変えていくほうが良いのではないかという問いが出た。
 東ティモールは現在社会の安定のために、市民社会の育成の為の長期的な支援が必要であり、インドネシアとの関係改善を目指した外交的な協力が必要だと述べた。

 最後に竹内がオーストラリア・中国・ポルトガルに対する外交を述べた。現在オーストラリアとの間に石油利権をもととした領海問題が起こっている。それに絡み、オーストラリアは東ティモールに対するプレゼンスを強化する為にベトナム戦争以来の大規模な軍の派遣を行ってきた。一方で中国も石油資源の開発戦略の一環として、また自国の製品の市場の開拓のためにプレゼンスを伸ばしている。

 現在東ティモールはポルトガル諸国共同体への加盟申請をしている。なぜここでポルトガルとの結び付けを強める動きがあるのかというと、70年代、インドネシアが占領したとき知識人が旧ポルトガル植民地諸国に亡命した事に関係がある。帰国した知識人たちが現在政府の中で活躍しているが、ゲリラ出身の指導者との間にあつれきも存在している。ともわれ現在東ティモールは、ポルトガル語諸国との経済・教育との強い結びつきがある。(高橋)

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  1. よく調べていますが、情報が5~6年古いです。いくつか指摘します。

    (1)現在の政府はグスマン首相率いるCNRTを中心にした連立政権であり、フレテリンは最大野党の立場に甘んじています。
     非常に興味深いことに、東ティモールではフレテリンを中心にマルクス主義的な思想背景を持った政治家たちが活躍していると同時に、それとは相容れないと考えられてきたカトリックの人口がとても大きな割合を占めています。実は、CNRTのグスマン首相もカトリックですが、愛読書の1つは「毛沢東語録」だそうです。
     政策上のマルクス主義の影響についてはよくわかりませんが、多くの東ティモールのリーダーたちが状況把握の方法としての史的唯物論と弁証法を意識しているのは間違いないと思います。

    (2)最近では、プロテスタントやWatch Towerなどの宣教師たちが入ってきており、カトリックの信仰者に関しては実は2009年時点では微妙な減少傾向が見られました。それでも、カトリック人口は95%以上を占めており、教会の政治的な発言力も強いです。ちなみに、憲法には信教の自由の規定がありますが、政教分離の規定はありません。

    (3)メディアですが、テレビに関しては現在ではオーストラリアやポルトガル、イギリス、インドネシアなどの番組を見ることができ、TVTLでもポルトガル語とテトゥン語の番組があります。私がコバリマ(かなり田舎の方です)に出張に行った際も、宿泊させて頂いた家庭ではみなさんでインドネシアのドラマを見ていました。
    しかし、ティモールで一番普及しているメディアはラジオ、地域の指導者たちを通した村レベルの集会や口コミだそうです。

    (4)ポルトガル語諸国連合にはもう加盟しています。

    実は、私の情報も半年くらい古いですので、何か間違っていたら指摘していただきたいです。

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