[NEWS] 防衛省主催「第2回 国際平和協力基礎講習」 -国連平和活動の動向と課題- (2012年1月30日)



「第二回 国際平和協力基礎講習」
■テーマ: 「国連平和活動の動向と課題」
■講師 : 長谷川祐弘 法政大学法学部教授
■日時 : 2012年1月30日(月) 14:20~17:20
■作成 : 飯島瑛梨 法政大学法学部国際政治学科2年

【講義要約】
 1月30日、防衛省・国際平和協力センター主催の「第二回 国際平和協力基礎講習」が実施され、長谷川祐弘 法政大学法学部教授が「国連平和活動の動向と課題」に関する講義を行った。前回に引き続き、今回の講習には陸海空自衛隊から44名の隊員が参加し、そのうちの三分の一が平和維持活動(PKO)に従事していられる隊員であった。
 長谷川教授は講習の第一部として、国連の平和維持活動の変遷と、その中で認識された国連による活動の限界をソマリア・ルワンダ・ボスニアでの大虐殺を例に説明された。それに基づいて第二部では、国連安全保障理事会の仕組み、また決議に至るまでの過程について説明された。講義の最後に、平和維持活動においては、現地の指導者が何を考えているのか、そして現地の人が何を望んでいるかを理解することが最も大事なことであると述べられた。また、元国連事務総長特別代表というご自身の経験から、現地におけるインフラ整備及び、使用した機材の使用方法の伝授を日本・自衛隊が行うことが効果的であると述べられた。講習を受けた隊員からは、国連平和維持活動等を行っていく上で、非常に有益な知識が得られたとのことだった。
 講習には法政大学大学院から、鍛冶屋詠子、法政大学からは、吉田翔悟と飯島瑛梨が同行した。

【講義内容】
1,国連の平和維持活動の変遷
 1990年代における第二世代平和維持活動では、停戦監視(国連のプレゼンス強化)、人道支援、平和プロセスとしての国民投票の支援を行ってきた。つづく第三世代平和維持活動では、第二世代の補完事業として、選挙支援、DDR及びSSRの実施、地雷撤去といった多目的な活動が行われるようになった。
1990年のイラクによるクウェート侵攻において、ジョージ・H・W・ブッシュ元米国大統領による呼びかけで国連多国籍軍が構築され、イラクの撤退へと導いたという成功例があった。しかし1994年のルワンダでの大虐殺、1996年のボスニアでの大虐殺に際して、国連はそれを阻止することができなかった。このことからPKOにおける三原則の見直しが必要とされ、著しい人権侵害の重要性が謳われるようになった。
 2000年頃から民主主義という考えが台頭し、独裁者の出現を防ぐためにも、法の支配のもとに市民を平等に扱い、市民が自由にふるまえる状況をつくることで社会を良くすることが大事だという認識が出てきた。(ジョン・ロールの思想)そして、この状態が確立していれば、たとえその国の指導者が変わっても破綻に陥ることはないということだ。

2,多国籍軍・国連平和維持軍の問題点
 民主化の流れにおいて多国籍軍などの重要性が増してきたわけだが、その活動に際してはある問題点が浮かび上がってきた。というのも、コミットの仕方に対する各国の考え方の違いから、国連平和維持軍が一つのユニットとして機能できないことである。

3,新たな理念と役割
 国連は新たな役割を確立する為に、平和維持に関する理念と基本原則の見直しが必要となった。そして、正当性・信用性・現地のオーナーシップという新たな原則が生み出された。

4,紛争の再発への危惧
 紛争を経験した国の半分が、50パーセントの確率で再び紛争が起こるとされている。そこで国連の役割(平和構築・平和維持・平和執行)と必要性は絶え間なく変化していくことになる。それは、時に平和と個人の自由、国家と人間の安全保障、正義と国家の安全それぞれ二つのものが相反するものになることが事例としてあるからだ。また、国際機関としての意見と現地政府の意見が食い違うことで生まれる齟齬も存在する。
 新たな方法として見出されたのは、国連の役割は紛争の根本原因を除去することであるということだ。その根幹となる原因には、国家の腐敗・差別・貧困・無知などが挙げられ、さらにその根底には人間や国家の権力や富に対する貪欲性と、政治的・文化的体制の問題が挙げられる。

5,現地での対応、貢献策
 現地社会においては、現地の指導者や市民が何を考え、何を欲しているかを十分に理解することが大事になってくる。ブラヒミ報告書で述べられたことだが、現地で活動する者は、安保理の聞きたいことだけではなく、伝えるべきことを事実に対して忠実に伝えるべきだということ、そして自分が認識していることと実際に起こっていることが必ずしも一致するとは限らないことを心に留めて置かなければならないということだ。

6,日本・自衛隊の貢献策
 これまでの日本の平和協力・ODAなどの支援には、海外の国から高い評価が得られている。今後していくべきことは、インフラ整備と設備機材の使用方法の伝授、現地人(特に女性)の尊厳の維持、国際問題に対する意識を高めさせること、雇用の促進、統合ミッションの支援、知的な貢献などが挙げられる。

【質疑応答】
Q-1. 自衛隊が活動していく上で、NGOとの連携はどのようにしていけば良いか。
A-1. 自衛隊が任務を終えて撤退した後で、機材の管理の問題などが出てくるので、その部分を自衛隊が滞在している間にNGOに伝授し、撤退後はNGOに任せることはよい。

Q-2. 民主主義国家の構築が第四世代平和維持活動の意図であるが、アフガニスタンなど反政府組織や民族対立のある国では、どうしていけば良いかなど方法はあるか。
A-2. それぞれの国に合ったdemocracyがあるということを踏まえなければならないが、統治形態をどのようにするかは難しい点である。アフガニスタンにおいては、タリバン政権のもとで女性が働いたりできないことに対して、正当化するか反対するかは非常に考えなければならない問題である。世界の秩序は1) Balance of Power, 2) Global Governance, 3) Hegemony, 4)帝国による覇権という何らかの形で保たれるべきである。覇権は必ずしも良いと云えないが、アナーキーよりましである。

Q-3. PKFとForce Commanderとの関係性はどのようなものであるか。
A-3. Force Commander は自国から派遣された部隊には命令できるが、他国部隊に対して命令を下すことができない。この体制は変えるべきである。また、現地に派遣する警察隊の隊員を、事前に訓練し要請があり次第即座に派遣できるような体制も必要である。