【国際機構論】2009年6月2日(火) 久山 純弘様 国連大学客員教授

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2009年度法政大学法学部
「国際機構論」

■テーマ : 「国連活動の効果・効率化促進のための基本枠組みと問題点」
■講 師 : 久山 純弘 氏 国連大学客員教授
■日 時 : 2009年6月2日(火) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 富士見坂校舎 309教室
■作成者 : 田島 康平 法政大学法学部国際政治学科3年

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<Ⅰ.講義概要>

1.はじめに
(1)国連に関して、時としてメディアによる批判的な報道があるが、一口に国連と云っても、加盟国の集合体ないしフォーラム(国連総会、安全保障理事会等)としての国連と、事務総長を頭とする事務局としての国連があり、メディアとしてはこれらを整理した上で議論すべきである。
(2)また各加盟国の出先機関として「国連代表部」(Permanent Mission)(国連大使がそのトップ)が置かれ、国連会議での発言(提案)内容等につき各国の国連代表部は本国政府と密接に連絡を取り合っている。
(3)国連総会は本会議と6つの主要委員会から構成されている。第1委員会は軍縮と国際安全保障、第2委員会は経済と開発、第3委員会は主として社会、人道、第4委員会は第1委員会では扱われない諸々の政治問題、第5委員会は行財政、第6委員会は法律問題を扱っている。
(4)ところで私は国連代表部に外交官として9年間在籍した(因みに当時代表部には緒方貞子・明石康両氏も在籍され一緒に仕事をした)。前半は第2委員会、経済社会理事会、機構改革委員会等に加え、UNDP, UNICEF等他の国連機関の理事会等の担当で、文字通り1年中会議に忙殺された。尚、後半は国連に事務次長として戻られた明石康氏の後を受け第5委員会を担当。この間1983年の第5委員会議長職のほか、国連総会等に対して大きな権限を有する国連行財政諮問委員会(ACABQ)の委員を数年に亘り務めた。

2.国連活動の効果・効率化を促進すべき背景
(1)国連総会は様々の地球規模問題(global issues)に対処するために8つの優先課題、即ちi)国際の平和と安全の維持、ii)持続的な経済成長と持続的開発の推進、iii)アフリカ開発、iv)人権、v)人道援助、vi)司法・国際法、vii)軍縮、viii)麻薬統制・犯罪防止・テロリズム対策を定めている。
(2)2005年にニューヨークで開催された世界首脳会合は国連活動の効果・効率化の一環として5年を超える全てのマンデート(国連総会決議等に基づく[事務局に対する]特定活動の要請・指示・方向付け)の見直しを求めた(事務局資料によると、総会の議決に基づく[進行中の]マンデートの数は8つの優先分野に限定しても5,300に上る由)。
(3)これらを背景として、国連としては限られたリソースの下で8つの優先課題にどの様に有効に対処していくかが極めて重要となっている。

3.国連活動の基本枠組み
(1)国連活動の基本枠組み(プロセス)は5段階、即ちi)政策的意思決定(マンデート策定)、ii)活動の財政的裏付け、iii)マンデートの実施と関連マネージメント、iv)活動評価、v)評価結果の審議・フィードバックから成る。
(2)政策的意思決定(マンデート策定)において、直接的責任を有する行為主体(アクター)は国連総会等の政府間ボディ(legislative organs)であるが、素案はしばしば事務局が作成する。財政的裏付けに関する意思決定についても直接的責任を有するのは政府間ボディであるが、予算案の作成と執行については事務局が責任を負う。マンデートの実施と関連マネージメント段階では、事務局が直接的責任を有する。但しマネージメントの改善に関してOIOS(Office of Internal Oversight Services:内部監査室)や、私が委員長職を含め10年間所属したJIU(Joint Inspection Unit:国連組織全体をカバーする外部監査機構)等の監査(oversight)機関による報告書や助言、報告書に基づく政府間ボディの監査が貢献している[因みにoversightは日本語の「監査」よりもずっと広い概念。例えばJIUの場合、国連組織が適切に仕事をしているかレヴューし、問題があれば改善のための提言を含む報告書を国連総会等に提出、そして総会等のお墨付きが得られれば事務局は然るべく改善策を採る義務を負うと言う仕組みが確立している]。次いで活動評価は、事務局の各部局(自己評価)だけでなく、客観的評価を確保するためOIOSやJIU等も行っている。ところで評価結果の審議・フィードバックは直接的には政府間ボディの機能であるが、この段階で監査組織による評価関連報告等が審議の基礎となるケースも増大している。何れにせよ、理想的にはこれらの5段階を経て、将来のより良き政策的意思決定(第1段階)等にフィードバックさせることが望ましく、これを如何に効果的に確保するかが一つの現実的課題である。 
(3)上からも明らかな通り、国連活動の主要な行為主体である加盟国(政府間ボデイ)、事務局、監査機関の間には機能上密接な関係があり、従ってこの3者は国連活動の効果・効率化に関して共同責任(shared responsibility)を有する。換言すれば、3者は活動の全過程を通じ各々本来有する機能を最大限発揮するとともに、総体としての相乗効果が高まるように行動すべき責任があると言える。尚、将来的にはこの3者に加え、市民社会、企業等の非国家主体も何らかの形で政策策定プロセス、フィードバック局面等に参画する可能性が高まると思われる。

4.国連活動の各段階(局面)における問題点
(1)新規決議案の審議に際し、“sunset rule”の導入(マンデートに一定の有効期限を設ける)が途上国の反対により困難であることに加え、プログラム面での実質的情報(プログラム・インプリケーション)が欠如していること等が、活動の重複の問題等を含め、マンデートの不必要な増加につながる要因となっていると考えられる。
(2)活動の財政的裏付けに関しては、上記(1)の実質的情報の欠如が安易な予算増につながっている可能性等。
(3)マンデートの実施と関連マネージメントに関しては、活動の効率的実施に必要な種々のマネージメント改革が不十分であることと、体系的かつ継続的なマネージメント改革推進体制の未確立が問題。
(4)活動評価については、スタッフの不足等の問題もあって、事務局各部局自身のみならず、監査組織による評価活動の実態も満足できる状況ではない。
(5)評価結果の審議・フィードバックに関しても、評価結果の政府間ボデイによる審議体制の問題を含め、フィードバックが極めて不十分なため、活動の効果・効率化につながっていないこと等が問題点として指摘し得る。

5.国連活動に関する一般的(将来的)課題
(1)国連活動の効果・効率化促進のためには、国連のアカウンタビリティ強化が必要である。アカウンタビリティは通常「説明責任」と訳されているが、説明すれば終りということではなく、結果に対する責任をも伴う概念である。国連との関連ではいわゆる管理型アカウンタビリティにとどまらず、政策策定プロセスへの非国家主体の直接的・間接的参加や、政策(活動)実施のパフォーマンスや結果についての非国家主体への説明責任などを含む広義でのアカウンタビリティ強化を志行することが望ましい。
(2)組織・ガバナンス構造・マネージメントの仕組み・ファンディングなどの複雑性や一貫性の欠如などに起因する非効率や活動の重複、不必要な競争を解消するために、国連組織の整理・簡素化、一貫性の推進等が必要である。例えば分野毎にばらばらに活動を行なうのではなく、分野横断的に協力すれば(“Delivering as One”)、国連組織或いはプログラム全体としての効果を引上げることにつながろう。
(3)国際社会が取り組むべき課題の多様化を背景として、国家や国際機関のみならず、市民社会、自治体、企業などの非国家主体を含むすべての主要アクター間の協働(連携)が重要な課題である。その場合、国連には活動の各局面において、多様なアクターとの間の適切な協力関係の樹立と相互調整を図るためのファシリテーターの役割が求められる。
ところで、国連は第2次世界大戦の戦勝国が中心となって創られた組織ではあるが、国連憲章前文には、“We the peoples of the UN”という理念が掲げられており、従って学生諸君にとっても国連は決して遠い存在ではなく、地球市民(global citizens) の一人ひとりとして国連をより身近なものとして捉え、国連活動一般、とりわけ国連がより意義のある存在となることに大いに関心をもってもらいたい。

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<Ⅱ.質疑応答>

Q1.国連総会等における決議案の採択に際、sunset ruleの導入に途上国が反対しているのは何故か。
A1.一般に途上国は国連(プログラム活動)を非常に重視しており、従ってとりわけ国連活動の効率化(予算増の抑制)の側面を重視する主要先進国に主導されたsunset rule的な考え方には、それが途上国にとって重要なプログラムのカットに結びつく可能性があるとして猜疑心を抱いているというのが反対の基本的理由と思われる。

Q2.国連内での汚職についてはどうなっているのか。
A2.無いと言ったら事実に反することとなろうが、国連の場合汚職と言うより特定のプログラムについて、資金がどの様に使われたのか、誰がどのように決定を行ったのか等についての透明性等の欠如が問題視され、これをメデイアが時折汚職(スキャンダル)の可能性ありとして取上げてきたというのが実情に近いかと思われる。この代表的事例としては“oil- for- food プログラム”(イラク)があるが、この場合プログラムをマネージする立場にある事務局だけでなく、それを監視すべき立場にある安全保障理事会の所謂”legislative oversight“もお粗末であったところに問題があったと言える。

久山 純弘

東京大学と上智大学大学院を卒業後、1975年から1984年まで外交官として日本政府国連代表部に在籍すると同時に、1979年から1983年まで国連行財政諮問委員会のメンバー、1983年には国連総会第5委員会議長を務められた。引き続き1984年から1993年まで国連事務次長補を務められた後、1995年から2004年まで国連総会の選出に基づきJIU委員、その間委員長職も務められた。現在は国連大学客員教授として活躍されている。