Professor Takahiro SHINYO commented on the inability to deal with the Russian invasion of Ukraine. (04/07/2022))

■大国に拒否権 なぜ認める
 ロシアはウクライナ侵攻直後の2月25日の国連安全保障理事会で、侵攻を非難する決議案の採決で拒否権を発動し、葬り去った。その後、国連総会で非難決議が可決されたものの、拒否権を持つ常任理事国が公然と近隣国を侵略した場合、安保理は機能不全に陥るという構造的な問題を改めて浮き彫りにした。

ロシアのウクライナ侵攻を非難する決議案を否決した国連安全保障理事会=2月25日、米ニューヨークの国連本部(ロイター=共同)

 拒否権を取っ払わない限り、機能不全は起き続ける。ただし、拒否権を取り除くとどうなるかというと、ロシアや米国は国連にいる意味がなくなり、大国を国連につなぎとめられなくなる。中国もそうかもしれない。国際連盟の二の舞にしてはいけないので、拒否権を残すのは仕方ないが、適切に行使してもらうようにするメカニズムをどうするか。これは1950年の朝鮮戦争開戦後に拒否権の乱用が始まって以来、安保理が抱える課題だ。

■複雑な対立構造 改革の障壁
 安保理改革は、92年に当時の宮沢喜一首相がその必要性を訴えて以来、足踏みが続いている。常任理事国を始め、加盟国にはそれぞれの国益や思惑があり、複雑な対立構造があって一枚岩になれないためだ。

 一つは既得権にこだわる常任理事国とそれ以外の国々。また、例えば常任理事国入りしたい日本、ドイツ、ブラジル、インドの4カ国グループ(G4)と、それを避けたい国々との対立軸もある。日本の場合は韓国、ドイツの場合はイタリア、インドはパキスタンとか、ある種の天敵と言える。

 さらに拒否権を持つ常任理事国を増やしたくないと思っている中小の国々のグループや、常任理事国を増やすなら自分たちもなるというアフリカのグループ、さらに無関心のグループもある。

■リヒテンシュタイン決議 変わる一歩
 ただ、今回のウクライナ侵攻は改革のきっかけになり得ると考えている。リヒテンシュタインの提案で、拒否権を使った常任理事国に国連総会での説明を求める総会決議が4月に採択されたことは、その一歩だろう。

 決議に強制力はないが、拒否権を使った国はみんなの前で説明せざるを得なくなるのではないか。毎回、総会に呼び出されて釈明することを求められ、記録も残る。前と違ったことを言えば矛盾も出てくるので、説明する方も緊張する。そういう緊張感を持たせた上で、拒否権を行使する重大な責任を意識させることにつながっていけばいいと思う。

■行使制限 安保理でなく総会決議を
 安保理については国連憲章の改正を必要としない即応的な改革と、必要とする中長期的な改革の2段階に分けた対応を提案したい。

 前者は拒否権行使の制限が中心となる。ジェノサイド(民族大量虐殺)や戦争犯罪にあたるケースでは、拒否権を行使しないというルールを作る。ロシアや中国の反対が予想される安保理では困難だが、国連総会で決議する方法がある。

 安保理改革に関する決議なので、採択には加盟国の3分の2以上(129カ国)の賛成が必要だろう。ロシアに対してウクライナからの「即時かつ無条件の完全撤退」を求めた3月の総会決議には141カ国が賛成しており、不可能ではない。決議に強制力はないが、加盟国の3分の2以上が賛成した決議に反して拒否権を使うのは、常任理事国にとって重い判断になり、心理的に拒否権行使を抑制する効果が見込める。

国連総会の緊急特別会合で、ウクライナに侵攻するロシアに対し「即時かつ無条件の完全撤退」を求める決議案を賛成141カ国の圧倒的多数で採択し、拍手する出席者=3月2日、米ニューヨーク(AP=共同)

 国連憲章27条3項に基づく拒否権行使の制限もある。同項は安保理メンバーが紛争当事国の場合、仲介や調停など紛争の平和的解決に関する決定では棄権しなければならないと規定している。国連に関する統計によると、過去に当事国の棄権は11回あった一方で、拒否権発動も14回ある。今回、ロシアが紛争当事国なのは明らかで、この規定を徹底して守らせる必要がある。2023年から非常任理事国となる日本は、順守を厳格に求めていくべきだ。

■「準常任理事国」創設 ベターな選択
 中長期的な改革は、安保理の組織見直しだ。国連憲章の改正が必要なので、3分の2の賛成を得なければいけない。

 具体的には現行の常任理事国と非常任理事国に加え、準常任理事国を創設するべきだ。非常任理事国は任期2年で連続再選できないが、準常任理事国は任期を4~8年に延長し、連続再選を可能とする。コフィ・アナン元国連事務総長もかつて似た改革を提案している。

 理事国が常任、非常任合わせた現在の15カ国から、準常任理事国も含め20数カ国に増えた場合、今まで以上に多数を得る努力が必要になる。安保理内の世論を無視して拒否権を行使するハードルは上がるはずだ。

 任期が長く、連続再選が可能な準常任理事国ができれば、安保理の議論の過程を把握しているため、国連での発言力も増すだろう。拒否権を持つ国が増えるわけではないので、常任理事国にとって受け入れやすい一方、これまで非常任理事国に手を挙げていた比較的大きな国が準常任理事国になれば、その分、非常任理事国の枠に入りやすくなるため、中小国にも反対が少ない改革案と考えられる。究極的には常任理事国の拡大を目指すべきだが、現時点ではベターな(今よりはましな)安保理を目指して改革を行うべきだ。

■三つの顔持つ国連 十分に意義ある
 ロシアによるウクライナ侵攻を受けて国連の存在意義を疑う世論もあるが、193もの国が加盟する普遍的な国際組織として平和と安全以外の分野でも十分に意義はある。

 そもそも国連には三つの顔がある。総会や安保理を始めとした加盟国で構成する会議体としての国連、中立の事務局としての国連、世界食糧計画(WFP)や難民高等弁務官事務所(UNHCR)などの実施機関としての国連だ。WFPやUNHCRは紛争下でも人道上の支援を続けており、機能している。持続可能な開発目標(SDGs)や気候変動への対応も国連でなければ難しいだろう。

 国連は第3次世界大戦を防ぐために設立された。安保理を巡る問題に代表されるように万能ではないが、冷戦を乗り越え77年間続いてきた。性急に国連は不要だと決めつけず、実行可能な改革を行っていくべきだ。(聞き手・吉田隆久)

 <しんよ・たかひろ>1950年、香川県生まれ。大阪大卒。72年に外務省入省。国際社会協力部長などを経て2006~08年に国連大使。退職後、12~18年に関西学院大副学長。専門は国連、国際政治。編著に「国連安保理改革を考える」(東信堂)など。72歳。
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