【国際機構論】2011年5月31日 国際法と国内法の関係と意義とは?(長谷川教授)

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2011年度法政大学法学部
「国際機構論」

■テーマ : 「国際機構の法的な意義と国連改革の必要性」
■講 師 : 長谷川 祐弘 教授
■日 時 : 2011年5月31日(火) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 407教室
■作成者 : 加藤 舞     法政大学法学部政治学科2年
       キム ミンシク  法政大学法学部国政政治学科2年
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<講義概要>

1.国際機構の法的な意義と権限
 国際機関と言うものは、国家が国際条約を結んで作った国際法人である。国際機関を作るための条約には政府の代表が署名し、その後国民の代表で構成されている議会において承認を得る。作られた国際機関の下では、条約を扱っている各機関が拡大し、自ら取極めをし始め、国際機構自体が国際社会での地位と権限を持つようになるのである。
 1969年に採択された「国家間の条約法に関するウィーン条約」では、国際法はどのような意味を持つのかを詳細に定義している。その第26条では「国家間の合意は守られなければならない」としており、当事国は条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない。 
 国内法と国際法のどちらが優位であるかについて、国連憲章には、加盟国に憲章内の全ての義務の履行を要求するとともに、全ての加盟国の主権の平等と尊重を明記されている。これは法律と言うものが、国際社会とそれに含まれる国と同じ平面に属すと考えられる一元論である。
 日本国憲法には、この憲法が最高法規であるのと合わせて国際法や条約を守るとの記述があり、こちらは等位論と呼ばれている。
 また、国内法は国家内の国民同士の関係を秩序良く守るためのものであり、国家間の関係はこれとは別次元であるとする二元論も存在する。この考えはウェストファリア体制の下、国家の独立が非常に重んじられていた約50年前までは優位であった。
 しかし、グローバルガバナンスの状況に突入した現代においては、最早国家間の取り決めだけでは問題を処理できない段階に入っているため、これらの考えを凌駕する、統合・統一・一貫的な視野が必要である。

2.国際連合の成長と拡大
 国際連合は国連憲章第110条に基づき、五大国と他の加盟国の過半数が署名し批准した時点において設立された。ここでは国際連盟の失敗を考慮し、五大国の参加が必須とされている。国連加盟国になった後には様々な義務が課されるため、加盟にはそれらをこなす意思が必要となる。また、国連加盟国になるための承認は、安全保障理事会の勧告に基づいて総会の決定によって行われる。つまり、安保理の勧告がなければ、総会といえども承認ができないのである。国連加盟国の増加には波があり、植民地がまとまって独立した際などに大幅に増加する。
 国連に参加するためには国家代表権が必要であり、これについて紛糾したのが中国である。中国では国共内戦の後、台湾の中華民国が国家代表権を行使していた。これは、中華人民共和国の成立が1949年であり、国連成立当初にはまだ存在していなかったためである。中華人民共和国が成立したことにより、言わば二つの中国が存在する状況になり、これに対しアメリカは審議の棚上げを提案した。このアメリカの案が支持された結果、1960年まで中国代表権問題は審議されずにあった。その後独立したアフリカ諸国が多く国連に加盟したこともあり、アメリカの案に対する支持が減少し、1970年頃には総会の三分の二の賛成を得て、重要事項案とされた。世界世論は北京に政府を構える中華人民共和国が中国を代表すべきとの動きを見せ、台湾の政権から本土の政権に代表の座が移されたのである。

3.国連改革の必要性
 ここでは、安保理の改革、人権委員会の理事会への格上げ、平和構築委員会の設立の三点について述べる。
 まず、安保理は国連の最も主要な機関であり、国債の平和と安全の維持について責任を持つとされる。国連憲章第26条には、安保理決議は守られなければならないとの記述があるため、国連加盟国は安保理の決定に拘束されることになる。現在の安保理は五大国に加え、10か国の非常任理事国の計15か国で構成されており、これは1963年の改革以来変更されていない。
 設立当初と比べ、加盟国が約4倍にも増加した国連において、変更されてこなかった安保理の理事国数は、現在の国際社会を反映しているとは言い難い。また、国連の活動が経済制裁やPKO、テロや核不拡散活動など多岐にわたるようになり、常任理事国の構成においても現実の国際社会を反映しているとは言えない。常任理事国には、必要な能力と意思を持つ国が残るべきなのである。
 アナン元国連事務総長は2005年に安保理改革案を提出しており、それには以下の4つの分野においての貢献を考慮すべきと記されている。まず一つ目が、国連の分担金の支払い額である。アナン元国連事務総長は分担金の10%を負担している国が常任理事国になるべきであると、明確な基準を提示した。2つ目は国連軍についてである。国連軍に軍隊や警察を派遣している国、つまり人的支援を積極的に行っている国の理事国入りを推奨した。3つ目が国際機関への金銭的援助、4つ目が外交上の貢献である。
 また、発展途上国も常任理事国に入れるべきとの案も作成されているが、安保理の機能を妨げないためには理事国を増やしすぎてはならず、数と機能の兼ね合いが非常に重要となっている。
 日本にとっての常任理事国入りの利点としては、国益の実現、アジアの代表性、国際社会への貢献に見合った地位などが挙げられる。現在は、他の常任理事国候補であるドイツ、インド、ブラジルとG4を結成し、アメリカとも緊密な協力を行っている状況である。