【国際機構論】2009年7月7日(水)長谷川 祐弘 法政大学教授

2009年度法政大学法学部
「国際機構論」

■テーマ : 「欧州連合European Union」
■講 師 : 長谷川 祐弘 法政大学法学部教授
■日 時 : 2009年7月7日(火) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 富士見校舎 309教室
■作成者 : 長島 啓輔 法政大学法学部国際政治学科3年

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<Ⅰ.講義概要>

1.欧州連合の理論化
(1)まず本講義の問題意識を、「欧州連合とは国際機関なのか、それとも超国家連合体なのであるか」と設定する。欧州連合は、アメリカ合衆国のような独立色を強く持った州の連合国家のような共同体であるのか、他方そこまでの超国家的なシステムを持った組織ではないのか、議論していく。
(2)国際関係理論によると、現実主義者(Realist)、自由主義者(Liberalist)、構造主義者(Constructivist)の三種類の学派が存在することは言うまでもないが、その他に機能主義者(Functionalist)が存在する。この理論の中で特に欧州連合の存在を理論づけることが出来るのか、以下に検証していく。
有力な機能主義者であるDavid Mitranyは、”A working Peace System”(1946)にて、以下のような理論を提唱している。
  「平和的変化の法等の意味でのタスクは国境の変化の必要性と望みを取り除くことである」
 つまり、国境による障壁がない世界こそ目指すべき現在の国際社会のありようであると論じているのである。そのようなグローバルな社会構築こそが世界全体を平和へと導くのである。
(3)機能主義者の論点は以下の3点である。
1.戦争の不必要性
2.国際平和の可能性
3.無政府・無秩序状態を乗り越える

(4)その後、Ernst B Haasは”The Uniting of Europe, Political Social and Economic Forces(1958)”において、以下のように論じている。
  「経済部門での統合を行い深めることは、経済部門ないしそれを超えた部分をさらなる統合へと導く。」
 彼は経済的な統合に成功することは、それと同時に政治的、社会的な統合を生み出すと言うことを論じているのである。経済が統合されることで政治的、社会的側面へ波及効果(spill over)をもたらすことを 強調しているのである。

2.理論の実践化
(1)欧州連合はこの50~60年の間で、いくつかの転換期を迎えている。
 1950年代ごろ欧州諸国は、鉄鋼、石炭分野を統合によって、より強大な利益獲得の為の資源ガバナンスを目指した。この取り組みは当時Inner 6と言われる6カ国(ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ)のみの締結であった。それは1951年にパリ条約の締結によって、European Coal and Steal Community (ECSC)として発行された。これは欧州統合の第一歩であったと言えよう。
 1957年のローマ条約では、The European Economic Community (EEC)、原子力開発に関する枠組みであるThe European Atomic Energy Community (Euratom)の2つが現実のものとなった。この2つが結ばれたことは、経済的な統合が進んでいったと言えるであろう。
 それから30年を経て、オランダのマーストリヒトにて結ばれた条約によってEuropeanUnionが現実のものとなったのである。
(2)当時の欧州連合の目的は、単一市場の実現による貿易と商業の活性化である。また、市場が統合されるにつれて環境問題への積極的な取り組みもなされるようになった。前述した政治面への波及効果が生じたと言えよう。
(3)マーストリヒト条約の持つ意義は、CommunityからUnionへと実質的に変化させた点にある。すなわち、経済統合から政治の統合に成功したのである。最も重要な成果は、欧州単一通貨ユーロの制定である。ユーロの制定は欧州国家間での経済的障壁を完全に乗り越えたと言えるのかもしれない。
 まとめると、マーストリヒト条約で取り決められた項目は以下の3点である。
1.単一通貨ユーロの誕生
2.司法・法律の共同での取り組み。正義への取り組み。
3.外交・安全保障での共同

3.欧州連合の構成
(1)欧州連合理事会 (European Council)。EUの最高政治意思決定ボディーである。
(2)理事会(The Council)。理事会の持つ役割であるが、それは立法権と経済政策の調整である。また、外交課題への議論、EUの予算の承認、正義・犯罪への対応など、多義に渡る役割を担っている。
 また欧州連合理事会では、国際連合のような一国一票のシステムは取られていない。国力に基づいて票数が割り振られているのだ。具体的には、採決には単純多数と特定多数を並列的に使っており、加盟国の50%の合意、人口の62%の合意がなければ採決は認められない。各国の持つパワーの公平さに関して非常に注意されたシステムであると言えるのではないだろうか。
(3)理事会議長国は6カ月との持ち回りである。現在の議長国はスウェーデンである。
(4)欧州議会(European Parliament)。興味深いことに、1979年まで、議会へ参加する議員は各国に任命されていた。しかしそれは本当の民主主義でないと言うことで、直接選挙へ切り替わった。これはつまり、代議士の意見は国の意見とイコールでなくなると言うことである。
(5)欧州委員会(European Commission)は、日本の官僚と同様と言われるように、様々なことを行う。具体的には、議会および委員会へ法律制定を提案する。それが議会を通過した際には、それを実際に適用していく役割も担っている。

4.欧州連合の抱える課題とは
(1)根本的な課題を5点にまとめる。
1.このまま拡大を促進していくことは可能であるか。
2.ユーロの安定。国家間には経済状況に差が生じるため、通貨の流出入が活発化する。
3.22言語を1つの共同体で使用する難しさ。
4.透明性。
5.安全保障。各国の姿勢が全く違う中でどのように統一された姿勢を打ち出すか。
(2)4カ国の加盟問題が存在している。
1.トルコ。トルコは加盟を熱望している一方で、歴史的な背景から今なおヨーロッパ人として認められていない為に加盟が認められていない。
2.クロアチア。過去の旧ユーゴスラビア、コソボでの暴力行為を背景に加盟が認められていない。
3.ノルウェー。政府は1990年に加盟を望んだが、国民投票によって否決された。その理由は、油田による利益を自国のみで使うためである。
4.スイス。国民投票によって否決された。永世中立の伝統が今日のグローバル化の波に対する形で存在している。
(3)欧州憲法の制定。
 欧州連合がさらなる統合に向けて目指しているのがこの欧州憲法の制定である。簡素化、民主化、透明性の確保、有効性、正当性など様々な問題が山積する中、国家の主権との対立を避け、憲法の制定を実現することは果たして可能なのか。大きな課題であると言える。