【外交総合講座】2009年4月22日 長谷川 祐弘 法政大学教授

0904021hasegawa
2009年度法政大学法学部
「外交総合講座」

■テーマ : 第一部「理論と実践」 第二部「グローバル化世界での外交」
■講 師 : 長谷川 祐弘 教授
■日 時 : 2009年4月22日(水) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 307教室
■作成者 : 大山 諒佑 法政大学法学部国際政治学科2年

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<講義概要>

1.国際関係の理論
(1)国際政治の理論として大きく3つがあげられる。現実主義、自由主義、そして近年生まれた理論として構築主義がある。
(2)構築主義は日本では一般的に「構造主義」と呼ばれているが、いかにして国際社会が構築されているか、そのシステムが成長しているのかという意味を踏まえ、「構築主義」と呼ぶ。

2.現実主義
(1)現実主義では1648年のウェストファリア条約以来、国際関係において最大の役割を果たすのは国家であると考える。個人は権力志向であり、国家は権力による制覇と自国国家の利益を守り、権力を蓄え、その権力を基に平和、秩序を守る。
(2)国際社会は非常に無秩序、無政府状態であり、そのなかではバランス・オブ・パワーが保たれる。彼らは変革を望むのではなく、従来のシステムを守る傾向があり、保守的である。
(3)現実主義者は外交を客観的要素で見ている。経済力、安全保障を蓄えることで国を強くしようとすることが国の行動の指針であると考えているため、政治は権力によって行われる。
(4)モーゲンソーによると、無秩序な社会において比較優位な立場にたち、世界を制覇していくのが主権国家の在り方である。一方、キッセンジャーの理論では、アメリカの利益が他の国家とぶつかる場合は、アメリカは自国の力を行使して制覇する義務があると唱える。要するに、国家の利益を優先するべきである。このことから分かることは、国家間では利害関係しかないということだ。
(5)新現実主義者のウォルツは、3つのことを言っている。第一に、国際状態は必ずしも全くの無政府状態とは言えない。国際社会にはそれなりのシステムが成り立っている。2つ目に、無政府状態というのは非常に不安定である。3つ目として、国家間は利害があった時にのみ付き合う。一国の大国が暴走することは必ず起こる。それを止めるためには、それに対抗する力がなくてはならない。したがって、二極構造が非常に安定したシステムである。つまり、絶対的な力を持つことが必要なのではなく、力関係はあくまでも相手との関係によって決まるものだ。例えば、北朝鮮がロケットを発射しても各国の北朝鮮との関係が異なるため、アメリカと日本の意見も異なる。

3.自由主義
(1)著名な自由主義者として、カント、アダム・スミス、ウィルソン、そして新自由主義者としてコハネ、ジョセフ・ナイ・ジュニアがあがる。
(2)カントはすべての国の憲法は人民が主体となる共和制になるべきだと唱え、国際法は合衆国の概念に基づくべきであると考え、そして人民はその普遍的な法律を遵守し、友愛関係を築くことが正しいと主張した。
(3)アダム・スミスは自由市場主義を唱えた。経済というものはあまりに規則を作ると、機能的に合理的に働かない。つまり、経済はできるだけ競争をさせ、良い製品を作り、良いサービスをする企業が生き残る環境にあるべきである。
(4)功利主義で知られるベンタムは、最大多数の最大幸福というものはつまり、個人の幸福の集まりが社会全体の幸福であると考えた。一国の社会であろうが、国際社会であろうが、そのようなシステムを作るべきであると唱えた。
(5)これらの考えを実践的にしようとしたのが第一次世界大戦後にアメリカ大統領、ウィルソンが主体となって作られた国際連盟である。彼は民主主義、民族の自決、自由貿易を14 Pointsの中で提唱した。
(6)新自由主義者のコハネは、従来の現実主義の政治と安全保障、自由主義の経済関係を統合し、相互理解が進んでいく国際社会のシステムの重要性を主張する。同じく新自由主義者であるジョセフ・ナイ・ジュニアは従来の他国を説得するソフトパワーを使うだけではなく、必要な時には力を行使するハードパワーと並行して考える「スマートパワー」をこれからは使っていくべきであると論じている。彼らはブレトンウッズ機構の役割である国際機関が利益を増大して、秩序のある国際システムの安定を保つために、国々が協力と相互依存するべきであり、それが世界の一般市民の利益につながると言っている。また、冷戦後、共産主義国家では様々な内戦が起こったが、民主主義国家は過去よりも戦争の数が減った。

3. 共産主義
(1)資本主義というものは非常に自己主義的で、資本家が自身の利益を追求する場合のみシステムを活用すると批判している。
(2)マルクスによると、モノを生産する場合において3つの要素がある。第一に生産する土地。労働力、そして資本。資本家は資本を持っているだけではなく、労働者を完全に支配している。資本主義では、資本家は利益を得るためにできる限り安い賃金を払い、裕福な人のみがより裕福になるシステムであり、そのようなシステムが権力主義と一緒になると、帝国主義が築かれ、究極的には金融市場主義になる。そして、富を作る欲望が限りなくなり、労働者が立ち上がることにより、いずれは崩壊すると唱えた。
(3)新共産主義によって世界の依存システムが構築されると主張。資本主義は国際通貨基金や世界銀行を彼らの道具として使うとして批判している。

4.構築主義
(1)構築主義では、国際関係というものは安全保障や経済、搾取などの問題だけではなく、文化や歴史、宗教などのアイデンティティーを表す社会関係も含まれる。
(2)そのために、外交を文化、歴史、宗教などから捉える。そして指導者もそのようなことを認識する必要があると考える。

5.機能主義
(1)機能主義とは、共通のためになる国を超えた協力である。そして国際法を守っていくという考え。
(2)ヨーロッパ統合の父と言われるモネによると、国際社会は国と国とが相互依存し、お互いの利益を追求することによって成り立つと言う。

6.第二部 国際社会の21世紀の課題
(1)国際社会が現在抱えている課題は大きく分けて4つ存在する。安全保障、経済・地域統合、地球社会と環境、人権である。
(2)グローバリゼーションが進むにつれ、物事が統合するだけではなく、考え方など、中身が深まっている。グローバリゼーションは国家の主権に非常に大きな影響を与えている。というのは、国家の主権が以前ほど確固なものではなくなってきた。例えば海外で自然災害が起こった場合において、他の国が当該国家の政府に意見を言うようになってきた。
(3)国際機構や、NGOなどのnon-state actorsの役割が非常に増えているが、それは今までには無かった新しい外交への挑戦とも言える。なぜなら、過去50年の間、世界の貧富の差は増え続けているからである。現在、先進国は発展途上国の約80倍の所得を得ている。また、世界の人口の5人に一人は食事に困っている。
(4)グローバリゼーションによって良くなった面もあるが、負の部分も存在する。貧富の差があげられるが、それとは別に、金融システムがあげられる。金融システムは機能的に稼働していたと思われていたが、資本家が利益を追求するあまりに経済が暴走してしまっている。グローバリゼーションによってアメリカのみにとどまらず、多くの国が問題を抱えている。気候変動や自然災害も負の部分の一面である。
(5)AIDS患者が年々増加している。世界ではAIDS患者は約4000万人存在し、年間500万人が死亡している。このような感染病にどのように対処していくのかが今後の課題である。また、近年麻薬や人身売買、小型兵器、国内紛争、テロなどの新しい負の側面も生まれてきている。
(7)地域社会の均一化も課題の一つである。言語や食事の文化の均一化が近年起こっている。それらは紛争の原因にもなりうる。それらに対してどのように対処していくのだろうか。
(8)その他にも、字を読めない人口の70%は女性である、人口の半分は薬を手に入れられない、約1億人の子供たちがストリートチルドレンとして生活しているなどの様々な課題が存在する。

7.グローバリゼーションの相乗効果
(1)グローバリゼーションがもたらす相乗効果もある。
(2)1つは世界社会の構造の変化。昔のような国家間の関係が薄れてきている。
(3)2つ目は、外交と内政の統合があがる。特に民主主義国家においては、外交は国内の要素が深く関係している。アメリカのベトナム戦争、イラク戦争を止めたのはアメリカの国内からの意見であった。民主主義はいかにして、市民が外交政策を決定できるが重要であること。
(4)国家の主権はどうなるのか、国際機構はどうなるのか。国際機構がより活躍するために、国は許すのだろうか。実際、自分の権力を自ら諦めるということを国はしたがらないが、相互依存していかなければいけない国際情勢がある。
(5)国連も近年役割が増えてきた。北朝鮮が軍事用ロケットを発射した場合、制裁をどうするのかについては国際世論の意見が必要となり、それを決めるには国連の場を用いることが増えた。

8.第二次世界大戦後の国際政治経済の動向
(1)冷戦時代は二極体制が安定していた。ソ連崩壊後、アメリカの一極体制ができた。
(2)自由民主主義が全ての答えであり、自由市場経済は間違っていたわけではない。そしてそれを守っていかなければいけないというのが多くの国が共通して考えている。

9.これからの外交の課題
(1)これからの外交の課題として、安全保障、経済統合、テロがある。その他にも、人口問題、感染病、エネルギー、南北の貧富の問題が存在する。
(2)このような利害関係を安定させるためには外交が重要になってくる。これからの外交政策を考える際、地球の環境保全、安全保障、公正な社会、世界の経済統合の4つの面が深く関わってくると考えられる。
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