【国際機構論】2009年7月1日(水)黒澤啓様 JICA公共政策部次長兼ジェンダー・平和構築グループ長

2009070102
2009年度法政大学法学部
「国際機構論」

■テーマ : 「日本のODAにおけるJICAの役割と国際機関との連携」
■講 師 : 黒澤 啓 氏 JICA公共政策部次長
■日 時 : 2009年6月30日(火) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 富士見校舎 309教室
■作成者 : 内藤 裕希 法政大学法学部国際政治学科3年

****************************************

<Ⅰ.講義概要>

1. わが国の政府開発援助(ODA)
(1)日本の援助は、1954年にコロンボプランに加盟したときから始まる。その年に前後して、1954年にアジア協会、1962年にOTCA、1961年にOECFがそれぞれ発足する。そして1974年に、アジア協会・OTCA・海外移住事業団の三機関が結びつき、特殊法人としてJICA(国際協力事業団)が誕生する。その後、2003年にJICAは独立行政法人化し、国際協力機構となる。並行し2003年に、新ODA大綱が作られる。
(2)他方で、OECF(円借款を行っている)と輸出入銀行(日本の民間企業に貸し付けを行っている)が結びつき、1999年にJBIC(国際協力銀行)が誕生する。
(3)2008年には、JBICが円借款部門と、民間企業への貸付部門に再度分かれ、前者はJICAと一緒になり、後者は政策金融公庫として新たに生まれ変わった。(JBICという名前は政策金融公庫に残っている。)つまり、JICAが唯一の政府系援助機関となった。
 (4)日本のODAの実施体制は、大きく分けて二国間援助と多国間援助の2つがある。多国間援助とは、日本が国連や世界銀行に、拠出や出資をする部分である。二国間援助とは、国対国の援助のことで、①無償資金協力②技術協力③円借款の3つに分けることができる。
(5)①は外務省とJICAが分担して実施しており、②はJICAと関係省庁が約50%ずつの割合で実施しており、③はJICAが行っている。特に②の技術協力に関しては、関係省庁が独自の機関を設け、各自で行ってしまい外務省の権限が及ばないということが問題視されている。そのため、2006年から首相をトップとする、海外経済協力会議を行い、ODAの大事な方針はそこで決めるようにしている。
(6)無償資金協力は、外務省の実施部分とJICAの実施部分に細分化されている。例えば、草の根・人間の安全保障無償やノンプロジェクト無償などは、外務省が担当しており、貧困農民支援や環境プログラム無償などはJICAが担当している。無償資金協力の実績は、アフリカが40%を占めている。具体的には、学校建設や井戸を掘るなど、物資を供与する協力を行っている。
(7)技術協力は(JICAの場合)、研修員受入・国際緊急援助・技術協力プロジェクト・青年海外協力隊派遣、専門家派遣など、人を介した協力を行っている。技術協力の実績はアジアが40%を占めている。
(8)JICAの一年間の予算約一兆円のうち8割を占める円借款の実績は、アジアが85%を占めている。円借款は、返済能力のある国を見極めて行わなければならないため、アフリカへの援助が少ないといった問題もある。
2. 新JICAの概要 
(1)2008年10月、「すべての人々が恩恵を受ける、ダイナミックな開発」を目指すという、新JICAのビジョンが打ち出され、そのための4つの使命として、1.グローバル化に伴う課題への対応 2.公正な成長と貧困削減 3.ガバナンスの改善 4.人間の安全保障の実現が定められ、その戦略として、Ⅰ.包括的な支援 Ⅱ.連続的な支援 Ⅲ.開発パートナーシップの推進 Ⅳ.研究機能と対外発信の強化が定められた。
 (2)新JICAの在外拠点は96ヶ所あり、アフリカ地域に多くある。国内拠点は17ヶ所あり、全国に広がっている。これら国内のJICAの主な活動は、①年間一万人近く、途上国から日本にやってくる研修員のサポート②地域の国際化のサポート③協力隊員の募集等 が挙げられる。
 (3)新JICAになり、国際機関との連携が更に重要視され、政策レベルの協議・事業レベルでの連携・共同研究、知見・経験の共有・人事交流・合意文書の締結などを行っている。連携機関には、国連ではUNDPやUNHCR、銀行では世銀やADBやAFDB、その他にも、USAIDやOECD/DACといった機関とも連携をしている。
 (4)特にJICAとUNDPは、同じ開発援助機関であるということから、結びつきの強い機関であるといえる。具体的には1988年以来、人事交流としてJICAからUNDPへ9名派遣されている。また定期協議・フィールドレベルでの連携・会議の共催が行われている。
3. 開発援助による平和構築支援
(1)近年の紛争の特徴には、国内紛争の増加・HDI下位半分の45%が紛争を経験・紛争経験国の44%が和平締結後5年以内に再発・市民の犠牲者の増加などがある。市民の犠牲者に関しては、WWⅠ:5% WWⅡ:50% 90年代:80-90%と急増している。こうした紛争の特徴の変化により、平和構築支援の重要性が言われてきた。
(2)従来の平和構築支援は軍事的・政治的な取組が中心だったが、紛争の約半数が5年以内に逆戻りするといったことから、長期的な視点で取り組む必要があるとされ、経済・社会的な取組、具体的には開発援助や人道支援が行われるようになってきた。
(3)JICAが行う平和構築支援のポイントには、平和構築のコンテクストは紛争ごとに異なることを認識し、国ごとの紛争要因、不安定要因を分析し、それらの要因に国レベル、プロジェクトレベルで的確に対処する、平和構築支援に関しては、常に紛争予防配慮の視点を取り入れるといったものがある。
(4)開発援助における紛争予防配慮には、紛争要因を助長しないように配慮する(負の影響の回避)といったもの、例えば、特定の民族・グループに偏った援助を避けるなど、または紛争の原因/促進要因を積極的に取り除くために、より効果的なあり方を追求する(正の影響の促進)といったもの、例えば対立グループ間の和解を促進するなどがある。
(5)JICAの支援重点4分野は、①社会資本の復興 ②経済活動の復興 ③国家の統治機能の回復 ④治安強化である。こうした援助をしていく際は、和解・共存を促進するようなコンポーネントを入れる必要がある。また社会的弱者支援も欠かすことのできないことである。
4. 難民支援事業におけるJICAとUNHCRの連携
(1)UNHCRのマンデートは二つあり、一つは難民の保護、具体的には紛争によって発生した難民に対して、法的保護や、難民キャンプ・井戸・診療所・シェルターなどを作って保護する。もう一つは、難民の問題を恒久的解決する、そのために、第三国定住・自主的帰還/再定住(最も望ましい)・現地定住の三つの方法をとっている。
 (2)JICAは開発援助機関であるのに対し、UNHCRは人道支援機関であり、根本的に異なる。この二つの機関がどういった協力をしているのか、ということであるが、一つは難民受け入れ社会への支援である。マンデートにあるように、UNHCRは難民に対してだけ支援をしている。そのため、難民受け入れ社会と難民の間でGAPが生じ、受け入れ社会が難民を受け入れなくなるなどの問題が起こってしまう。そこで開発援助機関であるJICAは、難民受け入れ社会の負担を軽減するために支援を行っている。それによって、難民と受け入れ社会との共存を目指す。
(3)二つめは、難民の現地定住支援である。JICAは、長期化する難民問題対策の一環として現地定住を推進している国(庇護国)においては、当該国政府が行う難民の現地定住計画(職業訓練や農業開発等)を支援する。
(3)三つ目は帰還民支援である。原則としてUNHCRは難民が庇護国から出身国に帰還した時点で支援をやめる。そのため帰還民がなかなか定着できないといった問題が発生する。そこでJICAは帰還民が定着するために支援を行っている。特にアフガニスタンで行っている。
****************************************
<質疑応答>

Q1.民間企業がJICAの中長期的な平和構築援助にどのように関わっていくのか

A1.民間企業は、リスクを伴う援助をしたがらない。しかしJICAとしては民間企業の援助が必要である。そこで、リスクを伴う援助をしてくれる企業にはそれなりにお金を出すなど、対策を講じている。それでも、多くの企業は消極的な姿勢を崩さない。ましてや、中長期的援助の在り方に関しては、誰も考える余裕がない状況である。

Q2.これからのJICAの援助はアフリカが中心となっていくとのことだが、民間企業はアフリカよりもアジアの援助に目を向けるだろうと考えられる。その際に生じる、JICAと民間企業の視点のGAPをどのように対処していくのか。

A2.確かに、民間企業や専門家がアフリカの援助に乗り出すことには消極的である。近年、若干であるが増加しているとはいえ、まだまだ足りていないのが現状である。JICAとしては人材育成に力を入れていて、アフリカにいくコンサルタントを教育し、慎重にリクルートするように心がけている。

Q3.JICAとNGOの連携体制はどのようなものなのでしょうか

A3.JICAだけではノウハウのない問題に対しては、NGOとうまく連携をとっている。民間企業との連携は最近始まったものだが、NGOとは10年以上も前から連携をとってきていてそのための特別の部署もある。あるいは、NGOの事業にお金を出すという草の根技術協力も行っている。 

Q4.国連はODAとして国民総生産の0.7%を拠出目標とすると掲げているが、日本政府として、未だに達成できていない。今後達成するためにどのような活動が必要か。

A4.現在日本は、国民総生産のうちの0.2%程度しか拠出できていない。日本は長年努力してきているが、現実的に0.7%の目標を達成することは困難である。

黒澤啓(くろさわさとる)

東京大学卒業後、青山学院大学で経済学修士を取得。1980年にJICAに入団。在ボリビア日本国大使館勤務、国連開発計画(UNDP)出向などを経て、1999年からは企画・評価部環境・女性課長を務められた。現在はJICA公共政策部次長兼ジェンダー・平和構築グループ長を務められている。