【国際機構論】2010年5月18日(火) 久山純弘様 国連大学前客員教授

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2010年度法政大学法学部

「国際機構論」

■テーマ : 「UN: How it works, and How to make it more effective, efficient, and legitimate」

■講 師 : 久山 純弘 氏 国連大学前客員教授

■日 時 : 2010年5月18日(火) 13:30~15:00

■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外壕校舎 307教室

■作成者 : 加藤 美翔 法政大学法学部政治学科2年

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<Ⅰ.講義概要>

A.国連活動の枠組みと現状

1.国連活動の基本枠組み

(1)国連活動は、分野の如何を問わず、また本部レベルか、フィールドレベルかを問わず、Decision-making, Implementation / Management, Reporting, Evaluation, Feedbackというプロセス(段階)を経るのが基本である。

(2)国連活動の第一段階である意思決定は、国連の政策やそれを実施するための戦略、具体的なプログラム活動等に関する決定(所謂マンデートの策定)と、マンデート実施のための予算に関する決定から成る。

(3)国連活動に関わる主要アクターは、基本的には加盟国(国連総会等の議決機関)、事務局、監査(oversight)組織の3つである[第4のアクターとでも呼ぶべき非国家主体については後(項目B)で言及する]。

(4)加盟国(議決機関)の主たる機能は意思決定(但し、議決機関による意思決定に当っては、予算案の作成に加え、実質的・政策的な事柄に関しても事務局が原案を作成する場合も多い)と評価結果の審議・フイードバック、事務局の機能はマンデートの実施・関連マネージメント・報告書の作成、監査組織の機能は評価・関連報告書の作成等である。

       

2.国連活動の各段階の現状(主要問題点)

(1)意思決定段階では、これまでに累積されたマンデート(国連資料によれば控え目に数えても5,000以上)の見直し(整理)が行われることなく、総会決議等のかたちで新規のマンデートが追加されているため、活動の重複や、それに伴う予算の無駄遣いも生じている。

(2)マンデート実施段階では、実施に関わる事務局のマネージメント改革が未だに不十分である。

(3)マンデート活動の評価段階では、評価体制の不備などもあって十分に評価が行われているとは云い難い。

(4)フィードバック段階に関しては、評価結果などを将来のより良き意思決定(第一段階)等に還元(フイードバック)させることが活動の効果・効率性を高める上からも極めて重要であるにも拘らず種々の理由でこれはあまり機能していない。

付記 国連総会の機能

国連の主要機関の中で最も重要というべき国連総会(本会議のほかに6つの主要委員会から構成されている)は、国連の意思決定の中枢的アクターとしての機能に加え、事務局マネージメントに対する監査責務(legislative oversight)(すなわち、監査組織からの報告書等に基づき、マンデート活動の事務局による実施過程で、総会により承認を受けた人的・財的等の資源が効率的且つ効果的に使用・マネージされているか等についての検証責務)を果す必要がある。

B. 国連の効果・効率・正当性の高揚に向けて(国連改革の問題)

(1)マンデートの整理(所謂「仕分け」)の必要性(因みに2005年「世界サミット」は「成果文書」パラ163の中で、総会等の決議に基づく5年超の全てのマンデートの見直しを求めている)。

(2)加盟国(議決機関)、事務局、監査組織の3者間には機能上密接な関係があるので(例えば上記の「国連総会の機能」参照)、各主体が夫々の役割を十分果たした上で、全体としての相乗効果が高まるように行動すべきである(共同責任)。

(3)更に基本的問題として、現在世界は主権国家間の体制(所謂ウェストファリア体制)から、国家だけでなく非国家主体を含んだグローバル・システムに変容しつつあり、この中で国連の果す役割も増大しているが、国連はその受益者たるべき地球市民から一般にかけ離れた存在で、その意味でも国連の正当性(legitimacy)は未だ十分に満たされていない。(国連は国家の目から見て正当性をもった存在であるだけでなく、国連憲章冒頭の”We the Peoples”にとっても正当性を持った存在でなければならない。)

(4)こういった状況下で次第に重視されるようになったのが ”stakeholders engagement”、つまりstake(利害関係)を有する者、すなわち地球市民(とりわけ特定の問題と深い関わりのある ”relevant stakeholders”) との “engagement” である。

(5)”Engagement” の究極的目標は国連総会などの意思決定過程等への地球市民代表の実質的参画であり、具体的には国連総会の下に例えば地球市民フォーラムを創設し、そこでの意見・議論を国連総会の意思決定に反映させること等が考えられる。

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<Ⅱ.質疑応答>

1.NGO について

Q.国連によりNGOが認定されるための手続きはどうなっているか?

A.代表的なものは、NGOが経済社会理事会(ECOSOC)との間に協議関係(”consultative status”)を樹立するための手続き(国連憲章第71条)であるが、その認定を得るにはECOSOC の下にあるNGO 委員会の審議を経る必要がある。しかし経済社会理事会は総会に比べると権限が限られていること等もあり、NGOの関心事を国連の最終的意思決定に効果的に反映させるには総会との関係の方がより重要である。

Q.日本がNGOの力を伸ばしていくために、国内ではどのようなことが必要か?

A.一般論でいうと、日本人は国際的な問題に対する関心・意識が低いように思われる。従って、意識を向上させることがNGOの力を伸ばすためにも基本的に重要と言える。様々な機会を活用して問題意識を高め、日本国内だけでなく海外との交流や情報交換を増やしていくことが必要である。一つの例としては、2005年にNYで開催された「世界サミット」(World Summit)の前に、国連総会議長の下、各国政府関係者と200 を超える世界のNGOとの間で対話集会(NGO等の意見・関心事を聴取するためのヒアリング)が開かれたが、そのような場に日本のNGOとして積極的に参加するようになることが望ましい。

2. 国連主導の国際会議について

Q.このような国際会議は国連のプロセスの中でどのように位置づけられているのか?

A.2005年の「世界サミット」を例にとると、世界の直面する諸問題への各国首脳の総体的意思の反映としての「成果文書」が国連総会で採択され、その結果、例えば平和構築委員会の設立に加え、人権の分野では従来の人権委員会を改組し、新たに人権理事会として総会の下部組織に格上げされることとなった。

Q.様々なアクターが問題対処に必要だが、国連に出来ることと出来ないことは具体的にどういうことか?

A.特定の問題への対処に当って、様々なアクターがバラバラではなく連携を企ること(パートナーシップ)が重要となっているが、そのコンテキストで国連は主導的役割(因みに

Cardoso報告では ”convening role” という語を使っている。国連文書A/58/817、パラ 41)

を果すことが出来る。但し、云うまでもなく国連は世界政府ではなく主権国家の集まりである以上、各国に ”political will” (「政治的意思」)がなければ何事もはなしを前に進めることは出来ない。

Q.国連代表部では国連の会議にどのように対処しているのか?

A.種々の国連会議に積極的に参加しているが、残念ながら国連の政策決定面での日本の参画はやや限られているように見受けられる。その原因としては頻繁に行われる人事異動にも問題があるのではなかろうか。

久山純弘

東京大学と上智大学大学院を卒業後、1975年から1984年まで外交官として日本政府国連代表部に在籍すると同時に、1979年から1983年まで国連行財政諮問委員会のメンバー、1983年には国連総会第5委員会議長を務められた。引き続き1984年から1993年まで国連事務次長補を務められた後、1995年から2004年まで国連総会の選出に基づきJIU委員、その間議長職も務められた。その後2010 年4月まで国連大学客員教授として活躍された。

Qusetions and Comments from students

1.現在は国連の中心が安保理になっていますが、その中でより民主的な総会の役割が高くなる必要を感じた。特に安全保障における総会、市民の影響の必要性が大きいことがわかった。

2.国連と市民社会が相互的に影響を与え合う関係となってきたことが興味深かった。ステイクホルダーがdecision making processに関与する可能性が議論されているが、UNにおける他のフレームワークに関与する可能性はあるのだろうか。

3.前回、国連と民間企業の協力関係促進が望ましいというお話を聞けたが、今回は国連とNGOの関係も重要であることがわかった。国連、一機構だけで「グローバルイシュー」に対処するには当然限界があり、さまざまなアクターと国連が結びつくことができるなら、個人と国連の協力関係を築くことも可能なのだろうか。

4.グローバリゼーションが世界中の国々に浸透して行くなかで、国連の役割も変わってきていると思った。さまざまな国際社会におけるアクターがうまく動けるように、相互にプラスに働いて行けるようにするためにも国連はその問題処理能力を工夫して高めて行かなければならないと思った。貴重なお話をありがとうございました。

5.国連の関連機関が増えすぎているからこそ、各期間への疑問を投げかける外部の存在が必要ではないかと思いました。期間の内側にいるがゆえに見えなくなっている非効率性もあるのではないかと私は考えます。

6.まだ国連と私たち地球市民はかけはなれた存在です。NGOと国連という関係の重要性や私たちと国連という関係にも興味を持ちました。アクターが増え、国連の役割も増えるなか、国連がどのように変容していくのかどうなるか気になりました。