【国際機構論】2010年9月21日(火) 長谷川祐弘法政大学教授 

rimg6783
2010年度法政大学法学部
「国際機構論」

■テーマ : 前期試験解答及び後期授業日程発表
■講 師 : 長谷川 祐弘教授
■日 時 : 2010年9月21日(火) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 306教室
■作成者 : 山本 純哉 法政大学法学部国際政治学科2年

****************************************

<Ⅰ.講義概要>

1. 国際機関、国家そして国際機関に対する国内法と国際法の適応
 国内法と国際法の関係の定義には二つの理論が存在する。一つは国際法と国内法を結びつくものと考える一元論と、両者を別個のものとして考える二元論である。その適用において、現実では内政干渉の原則から国内法が優先されるが、場合によっては国際法が優位に立つ場合も存在する。例えば国連憲章においては憲章2条2項によって国家が憲章に従うことが明記されている。法の適用の問題は近日発生した尖閣諸島の船長逮捕の問題の議論に結び付く。この問題において日本は船長を国内法に基づいて粛々と処理していくと表明したが、中国は尖閣諸島において日本の国内法を適用することに大きく反発した。このような領土問題をリアリズム的な方法を使わずに処理するにはどうすればよいか。その方法の一つとして、国際司法裁判所へ判断をゆだねることが考えられる。国際法への適用を図り、問題の解決を目指すのである。しかし、領土問題において国際司法へ判断をゆだねることには、自らの領土を失う可能性も内在している。このような実際的な不利益の問題も存在するが、究極的にはICCは国際における問題の解決につながるといえる。
2. 国家と国際機関での意思決定方法の相違
 国家において意思決定は国民の代表である議員の多数決等によって行われるが、国際機関においては一国一票制がとられている。しかしIMFのように各国の拠出金比率によって投票権を振り分けたり、ILOのように政府・経営者・労働者が票を分け合うなど例外は存在する。
3.国連と国連の諸機関における財源の確保
国連とその諸機関は主に各国の分担金や自発的拠出金等を主な財源としている。その中には回転基金というものも存在する。これは集めた財源を投資に回し、得た利益を援助に活用するというものである。UNDPは1980年まで国際機関に資金を回す役割を担っていたが、現在ではUNICEFと同様に支援活動を行っている。
4.国連での中国代表権問題 の歴史
1949年に中華人民共和国が設立すると、インドが北京政府代表を台湾代表と交代させる案を提案し可決されるが、翌1950年には米国の提案によって以後10年間審議は棚上げされてしまう。しかし、それまで米国の意見は絶対的なものとされていたが、60年代以降加盟国の増加などによって米国の影響力は低下し、その意見も次第に重要視されなくなり始めた。そんな中、1961年に重要事項指定方式に切り替え総会の3分の2の賛成の賛成が必要になり台湾の議席は守られた。その後、1971年には米国の指導の下に台湾議席擁護派が逆重要事項指定方式を編み出して台湾居直りを策したが、結局圧倒的多数で中華人民共和国による中国代表権が可決されるに至った。
5.EUとASEANの類似点と相違点
EUは政治、経済統合が行われているが、ASEANにおいては経済統合はすすんでいるものの政治統合は進んでいない。EU、ASEAN域内の総人口は同じくらいである。またASEANはEUに比べて共同体としての意識が希薄である。
6.ICCの目的とその役割
 ICCは普遍的で最も重大な犯罪を犯した個人を裁く国際刑事裁判所である。ウガンダ、コンゴ、ダルフール問題で設置された。その主な目的は紛争地における不処罰の文化(Culture of Impunity)を断ち切ることにある。
7.2005年の国連首脳会談で討議された国連改革案の合意案と不合意案
 平和構築委員会と人権委員会の設立・MDGsの推進・民主主義基金の設立の合意がなされたが、安保理改革・気候変動に関する合意はなされなかった。
8.国際機構の誕生と成長に関する機能主義者の理論的説明
 経済的なつながりが国家間で増えるにつれ航空管制問題などそこで生じる問題を解決する機構へのニーズが生まれる。これが国際機構の役割である。こうして作られる世界において国家は相互依存的であるため互いに協力的であり平和が保たれる。
9.核不拡散条約とは
 NPTは核不拡散・核軍縮・原子力の平和利用を目的とした条約である。しかし条約では五大国の核保有を認め、インド・パキスタン・イスラエル等が体制に参加していないなど問題点も多々存在する。
10.日本の国連活用の仕方とその改善
 日本はODA資金や平和構築における成功を通じて国連への協力を行ってきた。また、これからは地域グループの一員として自らの立場を強化していくこと、唯一の被爆国であることを活用して核軍縮のイニシアチブをとりにいくことが求められている。