[IntOrg] 2011年9月20日 開発・人道分野での国際機関の役割と活動(長谷川祐弘教授)



2011年度 法政大学法学部
「国際機構論」

■テーマ : 「経済・社会・開発・人道援助分野での国際機関の統合への道」
■講 師 : 長谷川 祐弘 教授
■日 時 : 2011年9月20日(火) 13:30~15:00
■場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 407教室
■作成者 : 加藤 舞 法政大学法学部政治学科2年
       野田 悠将 法政大学法学部国際政治学科3年

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<講義概要>
1,後期授業導入
 前期は政治、安全保障、正義の分野において国際機関がどのように活動してきたかを学んできた。後期では経済、社会、開発分野において国際機関がどのような役割を担い、いかに活動してきたかを学ぶ。例えば、国連関係機関、ブレトン・ウッズ機構(世界銀行、世界通貨基金)、地域的な国際機構(ASESAN、ADBなど)、そして国際的な政策調整機関(OECD、国際エネルギー機関など)等が挙げられる。また、近年重要性を増している機構として、国際NGOが挙げられる。政府間機構、国際機関の数は少しずつ増加しており、現在350ほど存在する。これに対し、国際NGOの数は毎年大幅に増加しており、現在3万ほど存在する。開発、経済、社会分野において、様々に活動している機関とはどのようなものであろうか。この60年間で、世界の事実と、国際機関の役割は変化している。

2,国際機関の関係図
 国連の開発援助システムの改革が、どのように行われているのか。これについては安全保障理事会などに関しての改革と同様に、開発の効率を上げるよう努めている。経済、社会、開発分野における国際機関には、国連の母体を中心として、それを取り囲む国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連児童基金(UNICEF)、世界食糧計画(WFP)、人権高等弁務官事務所(HCHR)、国連開発計画(UNDP)などがあるが、これらは、UN Funds and Programsと呼ばれている。これらは総会によって設立され、事務総長の直下に置かれている。そのため、これらの機関の長は、事務総長の推挙の下、総会で承認される。これに対し、17ほどある国連専門機関は、母体である国連からは独立している。つまり、それぞれの機関内のみで自らの運営を行っているのである。加えて、世界銀行や地域開発銀行は、経済社会理事会を通じて国連と協力関係を維持してはいるが、先述の専門機関よりも更に独立性が高い機関となっている。

3,国連システムの主要機関
 具体的には、国連システムの主要機関として、国連開発計画(UNDP)、国連難民高等弁務官(UNHCR)、国連児童基金(UNICEF)、国連人口基金(UNFPA)、国連環境計画(UNEP)、世界食糧計画(WFP)、国連人権高等弁務官事務所(UNHCHR)、国連貿易開発会議(UNCTAD)、国連薬物管理計画(UNDCP)、国連人間移住計画(UN-HABITAT)、国連パレスチナ難民救済事業(UNRWA)の11基金と活動計画機関が、総会により設立されている。

4,経済社会理事会
 経済社会問題に取り組む国連の機関は、形式的には経済社会理事会(経社理)の下で活動している。故に、それら全ての機関は経社理にレポートを提出する義務を負っているが、経社理の権力自体はそれほど強くはないのが現状である。その理由の一つとしては、経社理が任命権や財源を保持していないという点が挙げられる。各機関から提出されたレポートに対して拘束力のある勧告が出せないばかりか、理事国が54ヵ国もあるので、コンセンサスを得ることが困難なのである。そのため、効果や効率性に関して、しばしば問題視される部分がある。これを受けて経社理には、統計、人口開発、持続可能な開発、麻薬、犯罪防止・刑事司法、女性の地位、社会開発、科学技術の8つの委員会があり、これらの中でそれぞれ、各問題についての調査を行っているのである。

5,専門機関
 自ら管理・運営を行う中核の理事会を持ち、資金調達を行って活動を展開しているのが、専門機関である。専門機関の中でも、ILOは国際連合よりも早く創設され、1917年から労働問題に携わっている。第二次大戦後において、いち早く創設されたのは国際食糧農業機関(FAO)である。FAOはローマに大きな本部事務所を有しており、3000人ほどの職員が業務を担当している。国連教育科学文化機関(UNESCO)はパリに本部があり、教育分野の支援のために設立された。国際電気通信連合(ITU)は、通信分野の活動が発達した現在において、非常に活躍している機関である。ただ、ここで注意が必要なのは、国際移住基金(IMO)は国連機関ではないということである。

6,経済・社会開発と人道援助の歴史
 国連機関の役割の進展を見てみると、この50~60年の間で大きく変化している。1940年代から1950年代は、非植民地化と冷戦時代の始まりであり、UNICEFやFAOなどが先進国の復興に寄与した。その当時の日本は、新幹線や東名高速道路を造る際、世界銀行に融資を受けた。1960年代から1970年代にかけては、経済成長を非常に崇拝していた時代であり、様々な面で経済成長を追っていた。このころ国連工業開発機関(UNIDO)が、東西の冷戦の中において工業化を進めるためにウィーンに設立されたが、アメリカや西欧諸国はこの設立を良く受け止めなかった。寧ろ、ソ連や東欧諸国の方が力を注ぎ、社会主義的な工業化を推し進めた。1980年代から1990年代では、単なる経済成長でなく、構造改革を行わなければならないとして、世界銀行などが力をつけた。それと同時に環境保全が注目された。さらに2000年からの10年間では、国際社会はミレニアム開発目標を軸としている。

7,国連開発機関改革への初動
 1997年にコフィアナン国連事務総長が改革パッケージを発表した。そこでは、国連開発グループの設置と国連開発支援フレームワークの導入が発表された。これは活動の重複や、調整不足による非効率を解消するためである。本部レベルでは、多くの異なる国連機関の役割を一括して調整していく必要から、国連開発グループ(UNDG: United Nations Development Group)が設置された。現地レベルでは、国連開発支援フレームワーク(UNDAF: United Nations Development Assistance Framework)を導入することを決定した。これは国連システム開発機関が現地レベルでの重複をなくし、共同で且つ効率的に活動する必要があったためである。同時期にResident Coordinatorというものもできた。当該国のチームリーダーとして、多くはUNDPの代表がResident Coordinatorを務め、各国連機関が同じ開発目標を共有するためUNDAFのプログラミングを行った。
 国連開発グループ(UNDG: United Nations Development Group)とは、途上国において開発分野で活動する国連機関やメンバーの諸機関が、UNDP 総裁の下で、連携して活動するための枠組みである。本部レベルで国連機関による開発プロジェクトの調整を図り、現地の問題文責、モニタリング、プログラム作成などを行う。UNDGへの参加機関は多く、執行委員会はUNDP,UNFPA,UNICEF,WFPの4つで、メンバーは国連人権高等弁務官事務所、国連合同エイズ計画、ユネスコなど21機関によって構成される。又、オブザーバーとして世界銀行、国連人道問題調整局など、5機関が参加している。一方で、国連開発支援フレームワーク(UNDAF: United Nations Development Assistance Framework)とは、現地レベルで共通の開発目標に基づき、活動を行うための戦略的な枠組みであり、具体的にはMDGsに基づいた開発計画を作成し、各国連機関が、現地レベルでプロジェクトを実施していく。

8,21世紀の新たな国連改革
 2005年の国連首脳会議において、成果文書(Outcome Document)が採択された。ミレニアム開発目標、国家の枠組みを超えた脅威に対する集団的な対応の重要性と、紛争(後)国における人権と法の支配の確立が目的である。2006年には、国連システムの一貫性に関するハイレベル・パネル報告書が提出された。ここにおいて、”Delivering As One”という概念が発表された。これには、One Leader, One Programme, One Budget and One Officeという理念が込められている。自身の経験で、ネパールで”Delivering as one” を実施しようとした際に、オフィスの場所決めなどで困難があった、というものがある。人間は往々にして、しばしば自分にないものの話をするものだが、国連機関もまた同様であるということである。

9,ハイレベル委員会の10の勧告
 この“Delivering as One”には、10の勧告とパイロット事業8カ国がある。

(1)各国レベルにおいて責任者やプログラム、予算枠組みの統一を図り、必要であれば事務所も統一することによって、国連は一体となって任務遂行をおこなう。
(2)国連持続的開発理事会を設置し、「ひとつの国連」国別プログラムを監視する。
(3)経済社会理事会にグローバル・リーダーズ・フォーラムを設立し、経済・社会とそれに関連する問題に関する政策構成の役割において機能改善を図る。
(4)国連事務象徴、世界銀行総裁、および国際通貨基金事務理事による、世界規模および各国レベルでのそれぞれの役割と関係に関する正式な協定を見直し、改正のプロセスを設ける。
(5)MDG資金メカニズムを構築し、「ひとつの国連」国別プログラムに多年度資金を供給する。
(6)紛争や災害による被害を受けた後の人道支援から中長期的開発において、国連の主導的役割をより一層向上させる。
(7)国連システムの環境活動における目標の実現と効率性向上のため、国際環境ガバナンスを強化し、さらに一貫性を高める。
(8)ジェンダー平等と女性のエンパワメントに焦点をあてた力強い国連機関を設立する。
(9)2008年までに国連共通の評価システムを設立する。人事政策や計画策定、結果重視の運営等、そのほかのビジネス・プラクティスにかんしては、それらの向上をはかる、よりよいパフォーマンスと結果を生みだすものとして国連システム全体の調和を図る。
(10)国連事務総長は、国連システム内での重複を排除し、必要に応じて国連内の機関を統合するために、独立した作業部会を設立する。

10,パイロット事業8カ国
 Delivering As Oneはパイロット事業8カ国から始まった。その8カ国とは、ベトナム、パキスタン、アルバニア、モザンビーク、タンザニア、カーボベルテ、ウルグアイ、ルワンダである。特にベトナムについては良い例で、国連と政府が協力しあい、うまくいっている。ルワンダへは私の大学院生が今年の夏に訪れたそうだが、どんどん発展しているとのことだった。
 ここで鍵になるのは、国連常駐調整官(Resident Coordinator)である。国連常駐調整官はOne Leaderとして、途上国において国連の全ての機関のトップに立っている。但し例外として、紛争の起きているような国では、国連事務総長特別代表(SRSG: Special representative of the Secretary General)がトップに立つ。
Delivering As One では、One Leader、One Programmeという理念の下、全ての援助国において、国連機関が一つになろうとしているが、ここで課題となるのがOne Budgetである。国連機関は財務省のような中央機関から予算を貰っているのではなく、加盟国政府など様々なところから拠出金を貰っている為、各機関の財源を一つにまとめることができないという都合上、現実問題として、One Budgetは非常に難しい。