【研修旅行】東ティモールの現状とこれから (長谷川彩香)

【訪問先】UNMIT、UNDP、UNICEFなど
【研修期間】2008年8月31日~9月12日
【タイトル】「東ティモールの現状とこれから」
【レポート作成者】長谷川彩香

1、 東ティモールとは

東ティモールという国を聞いて、それがどこにあり、どのような国であるのかすぐに頭に思い浮かぶ人はそう多くないだろう。
東ティモールは、インドネシア近くに存在する島国であり、岩手県と同じくらいの大きさに約100万人が住んでいる。
東ティモールは、400年にもわたる外国からの支配を経て、21世紀に初めて独立した国である。
16世紀前半からポルトガルにより占領され、1975年に東ティモールの独立が宣言されるが、その後インドネシア軍が東ティモールに侵攻し、制圧した。1999年に国連主導の住民投票によりインドネシアの占領から開放され、20万人もの死者を出しながらも2002年5月に独立した。
現在、全般的に治安情勢は落ち着きつつあるが、連立政権と野党のフレテリン(東ティモール独立革命戦線)間の対立関係が続いていることや、2006年には国内的危機が発生したことなどからも、治安が確保されたとはまだまだいえない状況である。
東ティモールは東南アジアでも最も貧乏な国の一つといわれており、国民の多くが1日1ドル以下の生活を強いられ、貧困は深刻な問題である。水や電気の供給、道路の整備といったインフラもままならい。
平均寿命は約60歳、非識字率、乳児死亡率も高く、国連開発計画(UNDP)による人間開発指数ランキングでは、177カ国中、140位にランクしている。


2、国連の支援から自立できるのか

独立後、国づくりと平和維持活動の担い手として国連が支援しているが、国連もこのままとどまるわけにもいかない。
支援現地ではUNと大きな字で書かれた車が多くあった。東ティモールの治安は、国際治安部隊(ISF)、国連警察(UNPOL)、国家警察、(PNTL),国防軍(FDTL)によって守られているが、国防軍内の対立や国家警察(PNTL)の未熟さ、国連への依存などの問題が指摘されている。
研修中現地で活動するNGO職員の方とお話しする機会があったが、その方の「今は平和そうに見えるかもしれないが、何がおこってもおかしくない」という言葉にははっとさせられた。この国の安定はまだ達成できていないのだ。国連の支援がまだまだ必要とされていること、紛争後の国の回復の難しさを痛感した。
また、東ティモールのレストランやホテル、パブ、スーパーなどの利用者もその多くが国連職員や軍人、NGO関係者など外国人である。私たちが泊まったホテルも、多くの国連職員が泊まっていた。
そのような中で、国連が撤退した後、一体誰がこれらの産業をささえるのであろうか。
今後国連が撤退したらこの国の経済は成り立たないのではないか―そう思わずにはいられなかった。
国連開発計画(UNDP)の副所長を務まれている高田さんは、この問題に関して、「いろいろ議論はあるが、国にあったメンテナンス、システムを作ったらそのまま続けられるようにすることが重要である。また、雇用づくりの面からもセキュリティが非常に重要。自分のセキュリティを守ることは大変センシティブな問題であるので、交渉が大事である。政府も投資しやすい環境をつくることが必要である。この問題もまさに今後みていかなければならない。」と言われていた。


3、 都市と地方の格差

国連開発計画(UNDP)の方々に郊外に連れて行って頂いた。
都市ディリと地方の格差は大きく、地方の暮らしはまるで大昔の暮らしのようであった。電気やガスといったインフラが何もない。
東ティモールでは、貧困層の85%が地方に住み、その多くが自給自足の生活をしている。
国民の多くが農業により収入を得ているが、国内総生産のうち農業が占める割合は25%程度である。
地方における貧困がいかに深刻かが分かるだろう。労働力の不足、基本的な社会的経済的サービスの欠落、人材不足、教育へのアクセスが整っていないことなど、問題は山積みである。
このような問題に対し、国連開発計画が行っている貧困層の所得向上や持続可能な開発の実現を目標としたアイナロ・マナトゥトゥにおけるコミュニティ復興プロジェクト(AMCAP)を視察させていただいた。
インフラが整っていない中で、牛の糞などを利用したバイオガスは非常に興味深かった。また、コミュニティ開発を目的とした、長期プロジェクトの自助グループ支援においても、人々が自信をもって活動しているのが印象的だった。


4、 石油資源がもたらす可能性

国連撤退後の産業、貧困問題をどのように埋めていくかといった問題に対し、東ティモールに明るい未来をもたらす唯一の鍵が石油資源である。
現在の石油基金はノルウェーをモデルにした立派なものであり、石油基金の使い道は国会で決められる。
東ティモールの貴重な資源である石油の収益をうまく利用して公的財源を確保する。貧困と公的財源の悪循環を断ち切るのである。そしてそれらをプライベートセクターにまわす。もし投資がうまくいけば、経済発展も成功するだろう。
少ないお金でどこまでできるのか、いろいろ議論する必要がある。石油資源もあと30年程で枯渇してしまうということや、政府の資金運用能力などの問題点からも、地に足の着いた発展戦略の重要性が求められる。

5、東ティモールの子供たち

東ティモールは国民の60%が15歳以下であり、本当に子供が多い。少子高齢化が進む日本にとっては羨ましいことだろう。
研修中にたくさんの子供たちと会ったが、みんなカメラをむけると満面の笑みを浮かべる。
厳しい状況下で暮らす子供たちがどのようであるか心配であったが、子供たちの笑顔を見るとほっとした。
東ティモールでは、子供を大事にする伝統があり、売春やみなしごがあまりいないという。素晴らしい伝統だ。
しかしながら、やはり貧しさから働いている子供たちはたくさんいる。外国人が集まるようなところには子供たちが物を売りに来る。買ってあげたいが、子供を労働者とする構造ができてしまい、搾取問題が出てくる懸念もある。
ものを売りにきていた子供たちは中学生くらいの身長であったが、実際は高校生の年齢だった。
栄養が足りていないために身長も低いそうだ。買ってあげたほうが少しでもその子の助けになるのではないか・・買ってあげたほうがいいのか、買わないほうが良いのか非常に悩んだ。子供たちが働かなくてもよい社会をつくっていかねばならないと強く思う。
また、教育へのアクセスもまだ乏しく、12歳の半分が学校へ行っていないという。入れたとしても、貧しさなどからドロップアウトしてしまう子供が多い。貧困の一番難しい部分は若い母親とその子供にある。教育を受けることによって、結婚と妊娠を遅らせることが重要である。
未来を担いゆく子供たちの健康と安全は一番に考えねばならない。
子供たちの笑顔がもっともっと増えて、彼らが安心できる生活が送れるよう、東ティモールの今後の平和と発展を願うばかりである。

This article has 5 Comments

  1. 井上さん

    貴重なコメントを頂き、ありがとうございます。また、東ティモール研修旅行では、大変お世話になりました。井上さんのお力添えがなかったら決して研修旅行をここまで意義のある、素晴らしい研修にできなかったと思います。

    石油基金の資金の引き出しはバランスが難しい点ですね。長期的な視点で考えなければならなりませんが、現状を考えると厳しい。東ティモールがいかに資源の活用を成功させるか、さらに考察する必要があることを痛感します。

  2. 長谷川先生

    貴重なコメントを頂き、ありがとうございます。東ティモールフォーラムにおける財務大臣のご講義は非常に興味深かったとともに、大変勉強になりました。
    政府の方針どおり、東ティモールが経済発展し、子供の教育もしっかり普及されることを願う次第です。

  3. すばらしい報告書、楽しく読ませていただきました。短いTL訪問期間にいろいろなことを観察されましたね。ひとつだけコメントすると、石油資源についてですが、現在の石油基金は持続可能な限度額以内にお金を引き出していくのであれば、石油資源が枯渇した後も基金の運用だけで未来永劫、お金が入ってくるようになっています。ただ、現在の政府は、現在の国民の生活がよくならないければ子孫の幸福もない(子供が死ぬようでは子孫は残せません)という理由で、限度額以上の資金を引き出そうとして、手続き上ですが違憲・違法の判決を受けました。市民社会も政府には批判的です。天然資源があるがゆえに国が発展できない例は枚挙遑がありません。今後も、この点をフォローしていかれるとよいと思います。

  4. 非常に的のついた指摘をされております。東ティモールがいつになったら国連からの依存から抜け出せるかという問いは私が特別代表をしていたころから何度となく出されておりました。そして治安維持のみならず、国民が経済的にも自立していけるには、天然ガスからの歳入をいかに開発と人材育成に向けていけるかが大事な点でしょう。今年の9月に私たちが研修旅行で東ティモールを訪問した時には、子供の教育が第一の重要課題であり、その為にも国家予算を増やし、教員の養成と学校設備を整えようとしていると財務大臣は云っておりましたね。今後も貴女に貴重な提言をもとにして、東ティモールの指導者に訴えていく所存です。

    長谷川祐弘
    東ティモール大統領
    特別顧問

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