【国際機構論】2010年5月25日 長谷川教授講義

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長谷川教授は、まず国際機構の法的意義と権限について講義されました。その中で、「国際機関と国家の関係」や「国際法と国内法の関係」(一元論・2元論や国際(内)法優位論)などに関し、図を用いて詳しく説明して下さいました。
その後は、国連加盟国がいかにして増加してきたのか、そしてそこから派生する国連での国家代表権問題について中国を例に挙げて解説されました(光達由菜)

2010年度法政大学法学部
   「国際機構論」
■テーマ :「国際機構の法的な意義、国際機構と国家の関係」
■講 師 :長谷川 祐弘教授 法政大学法学部教授
■日 時 :2010年5月25日(火)13:30~15:00
■場 所 :法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎 407教室
■作成者 :光達 由菜 法政大学法学部国際政治学科2年

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長谷川教授は、講義の初めに「新国際機構論」(横田洋三著)、「国際連合」(明石康著)の2冊を参考文献として挙げられた。

<講義概要>

1. 国際機構の法的な意義と権限
(1)まず、条約による政府間機構の設立について考える。国家の行動を管理し、交渉することにより互いの立場を明確にするために結ぶ契約が条約である。
(2)国際機構の法的権限について考察する上で、国際機構の憲章は重要である。ここでは、国際社会での地位と権限を定めており、政府にとっては都合の悪いことでも国際機関が普遍的な理念や価値観の基づいて国家に推進することを促すところに意義がある。
(3)国際法と国内法との関係
国際法と国内法の関係には一元論と二元論の二種類が挙げられる。一元論は、主権国家が条約の締結により他者との関係を作り、互いに関係しながら存在するというもので、他方二元論は国際法と国内法は次元の違う異質なもので全く無関係であり、体系も違うとするものである。
また、国家間の条約法に関する1969年に採択さたウィーン条約は、条約のための条約として81カ国が加盟し、日本も1981年に批准した。この条約の第26条では「合意は守られなければならない」、そして第27条では「国内法と条約の遵守」を定め、持続性と普遍性を要求している。これは、当事国が条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することが出来ないということを意味している。この規則は第46条の規定の適用を妨げるものではない。では、前政権による条約締結後の新政府は拘束されるのだろうかということが問われるかも知れない。新政府は前政権の条約を継続するか否かを条約決に定められた手続きを得て提案する権利はあるが、前政権が合意した取り組みは遵守する義務があり法的な手続きを踏まずに破棄したり、また無知であると不履行することは許されない。例えば、世界銀行への借金返済などは政権が交代したとはいえ、その国の政府として新政権が責任を取らなくてはならないことになっている。たとえば、1994年に大虐殺があったルワンダでは、新政権が前政権による借金を返済する能力がなかったので、ヨーロッパのくにが肩代わりしたことを覚えている。
(4)国連憲章による国家の権利と義務
国連憲章第2条1項では、「全ての加盟国の主権平等」を原則とする。一方、国連憲章第2条2項において「全ての加盟国は加盟国の地位から生ずる権利及び利益を保障するために、この憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならない」と規定している。
(5)国内法と国際法の優位性と上下関係に関する議論
米国では、国際法に対しては国内法より下位の効力しか認めていない。つまり、国際法は憲法より下に位置するとしている。一方、スイスでは条約を国内の法律と同等の効力を持つものとして認めている。最後に、日・独・仏などでは慣習国際法や条約は自国の憲法より下位とするが、法律より上位と認めていると言えるかも知れない。このように、国際法と国内法の上下関係に関しては、国によって様々な基準で定義されているのが現状である。

2.国際機構と国家の政治的な関係
(1)国家にとっての国際機構
国家にとっての国際機構の役割は多岐に渡るが、外交に関していえば「国際機構における外交」「国際機構を通じての外交」「国際機構に対する外交」「国際機構のための外交」(国際機構の役割としての理念を追求していく)など国家は様々なアプローチから国際機構と歩んでいこうとする姿勢で臨んでいる。
(2)国連加盟国の増加
国連加盟国は1945年に原加盟国が51カ国であったのに対し、2006年にはモンテネグロの加盟によって192カ国まで増加した。その過程には、新しく独立した多くの国々やロシアに長く反対されてきた日本が加盟を果たし(日本は1956年加盟)、1973年には東・西ドイツの同時加盟、そして1991年には朝鮮民主主義人民共和国・韓国の同時加盟など歴史的瞬間が多々存在した。
(3)中国国家代表権問題
中国の国家代表権問題とは、国連における中国の代表権を台湾政権と北京の中華人民共和国のいずれかの政府に属するかをめぐる問題である。代表権問題に関しては、安全保障理事会と総会が決定する権限を握っている。1949年に中華人民共和国が設立すると、インドが北京政府代表を台湾代表と交代させる案を提案し可決されるが、翌1950年には米国の提案によって以後10年間審議は棚上げされてしまう。しかし、それまで米国の意見は絶対的なものとされていたが、60年代以降加盟国の増加などによって米国の影響力は低下し、その意見も次第に重要視されなくなり始めた。そんな中、1961年に重要事項指定方式に切り替え総会の3分の2の賛成の賛成が必要になり台湾の議席は守られた。その後、1971年には米国の指導の下に台湾議席擁護派が逆重要事項指定方式を編み出して台湾居直りを策したが、結局圧倒的多数で中華人民共和国による中国代表権が可決されるに至った(アルバニア決議)。長谷川教授は、この問題に関するより深い理解を得ることが出来る文献として、「国連中国代表権をめぐる国際関係」(張 紹繹著)を御紹介された。
(4)意思決定方法
安保理の意思決定は手続き事項に関しては15カ国中9理事国以上の賛成票があれば良いが、
それ以外の事項(実質事項)については5任理事国(米・英・露・仏・中)全ての賛成を必要とする。1国でも反対票を投じれば決議の成立を妨げることができ、これを拒否権という。実際に1956年のスエズ危機の際、英仏は国有化に反対するとして、拒否権を行使した。
その一方で、国連では一国一票制度も導入している。この制度は、大国も小国も関係なく全ての国々が同等の発言力を持てるようにと意図されたものだ。しかし、これに関しては以前米国議会が加重表決制(国連分担金の分担比率に応じて保有票数を変える方式)を要求したが、国連憲章になじまぬ方法として見送られるという過去もあった。
(5)国連改革
「安保理改革」「財政改革」などは数度にわたり作業部会やハイレベル委員会などが設置され、改革論議がなされてきた。2005年にはアナン事務総長が報告書で国連安保理改革を提案したが、実現しなかった。外務省の滝崎課長が翌週来られるときに国連安全保理改革に関して説明してくれることになっていると長谷川教授は述べておられた。

長谷川 祐弘教授
ミシガン大学卒業後、国際基督教大学大学院修士課程修了、ワシントン大学で国際関係開発学博士号取得。1969年より国連職員として開発援助、国連平和維持活動に従事。2007年4月より法政大学法学部教授、国連大学・東洋大学教授、東ティモール民主共和国大統領特別顧問を兼任。