[Seminar] The all-inclusive lecture by Professor Hasegawa and the special lecture by Mr. Hirabayashi (10th July 2012)



2012年度法政大学法学部国際政治学科
長谷川祐弘ゼミナール

■ 日 時 : 2012年7月10日(火)
■ 場 所 : 法政大学市ヶ谷キャンパス 富士見坂校舎 F310教室
■ 作成者 : 中仙道 舞  法政大学法学部国際政治学科3年

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<4限目>
■ 内 容 : 前期総括講義「Globalization and Interdependence」
■ 講義者 : 長谷川祐弘 法政大学法学部国際政治学科教授
■ 使用文献 : ジョセフ・S・ナイ・ジュニア著 『国際紛争』 P.247~P.281

1. グローバリゼーションの諸次元
 グローバリゼーションには多くの次元がある。そして、経済・環境・軍事・社会のグローバリゼーションは、我々の日常生活に大きく影響している。グローバリゼーションの現代的な形態は「より厚く・より素早い」点に特徴があり、さらにはFacebookに見られるように、情報革命とより密接に関連している点も着目すべきである。

2. 相互依存の概念
 相互依存は源泉・利益・コスト・対称性の4つに大別することができる。源泉は、物理的・社会的側面に分けられるが、両者は通常同時に存在する。今日の相互依存の中にはゼロ・サム的側面と非ゼロ・サム的側面がある。さらに相互依存のコストについては、敏感性と脆弱性の双方のアプローチを理解しなくてはならない。また、現在の経済の基盤は情報であり、原材料の価値よりも情報の価値を重要視するようになった。そして、相互依存の対称性は比較的バランスのとれた依存状況のことを示し、非対称性の操作は権力の源となり、異なる問題ごとに変化していく。

3. 石油をめぐる政治
 石油の問題はリアリズムと複合的相互依存の双方の側面を含んでいる。1973年以降、石油の国際レジームは富裕国の巨大企業と消費国のみで決定されるのではなく、生産量を決定する産出国が価格に大きな影響を及ぼすようになった。これにより貧しい国へ権力と富の移転が行われ、貧しい国の国際的ポジションが拡大して行った。その理由をリアリストは軍事力や経済力、リベラリストとコンストラクティビストは国際制度の変化から答えようとしている。21世紀に入ると新たな石油供給源であるロシア・中国の出現により国際石油市場は激化した。石油をめぐる政治はより一層複雑化を見せ、インドや中国が鍵を握っていると言えるだろう。

<5限目>
■ テーマ : Incredible India
■ 講義者 : 平林 国彦 様  UNICEF 東京事務所代表
1. 基調講演
 南アジア諸国の中でインドは「インド亜大陸」つまりSubcontinentと呼ばれており、その理由はいくつかある。
地政学的に見るとインドは大きな半島を形成しており、パキスタン・バングラデシュ・スリランカ・ネパールなど様々な国と接している。また、海に面している部分が多い反面、カンチェンジュンガと呼ばれる世界第3位の高さを誇る山を有し、多様性に富んだ国である。インドにおける多様性とは、公式に発表されているだけでも25の言語があるなど、様々な背景・宗教を持つ人種が存在していることだと言える。
 政治的観点から見ると、インドは28の州と7つの連邦直轄領で成り立ち、政治形態は議院内閣制と連邦制を採用している点が大きな特徴である。国家元首は大統領であり、現在はインド初の女性大統領パティル氏が担っている。
 インドには、大変優秀な上級国家公務員(IAS)と呼ばれる人々がいる。IASになるためには23分野から出題されるPreliminary examやMains、Interviewなどの試験を受けなくてはならず、2010年には55万人が受験し、合格者は850人であった。
インドは大変スケールの大きい国である。人口は約12.5億人であり、一つの州にだいたい1億人が住んでいると言われている。また、人口の36%にあたる4億4700万人が子どもである。以上を踏まえてインドの保健について考えた際に最も興味深いことは、屋外排出をしている人口が約6億2000万人もいるのにも関わらず、携帯電話を所持している人口はこれよりも多いことである。この理由を考える為にはニューデリーではなく、地方に行くべきである。
 インドという国は、経済成長は著しいが、保健医療の改善がそれに伴っていないのが現状である。これがインドのパラドックスである。2010年度のデータによると、5歳未満の子どもの死亡原因は、肺炎が23%(39万人)、下痢12%(20万人)、新生児死亡が全体の52%である。下痢の対策としては、きれいな水を利用し、石鹸で手を洗うことが欠かせないだろう。
 これだけの子どもが死亡する原因は、未だ改善されない保健サービスの問題にある。2010年度のデータによると、5歳未満の年間死亡数は約170万人で、毎日4500人以上が尊い命を落としている。
 地域的に見ると南インドではHIV患者が多く、北インドでは5歳未満死亡率が高い。これらは、南の地域は経済発展が著しく、商業的性交渉が頻発していることが原因であり、一方で北の地域は貧困地域であるというのが理由として挙げられる。インドは経済的格差が非常に大きく、その格差は保健医療アクセスの度合いにも現れている。
 インドではある程度の児童労働は認められているが、学業に支障を来たすものや強制的なものは違反とされている。5歳から14歳の子ども2800万人が児童労働に従事していると公表されているが、恐らく実際の数字は5000~6000万人だと推測される。この背景には、学業を重視しない親の教育に対するアプローチや、家庭の経済的理由などがある。要するに、児童労働の取り組みは「全員が学校に通えば解決される」問題である。2009年にようやく無料の義務教育を与える権利法が制定され、法的に罰せられるようになった。根本的原因を改めて言うと、Social Exclusion、つまり社会が組織的に疎外することを是とする認識にあり、この問題を解決するためにはSocial ExclusionをSocial Inclusionへと変化させ、疎外されている人を社会へと取り入れる動きが必要となる。

■ 講義者経歴紹介
 1994年筑波大学で医学博士号取得。1994年から1998年まで国立国際医療センターに勤務後、インドネシア、キルギスなどでJICA専門家として勤務。2001年にWHO短期コンサルタントとしてベトナムに勤務。2003年から2006年8月までユニセフ・アフガニスタン事務所に勤務、2006年8月から9月までレバノン事務所の保健栄養部・臨時チーフ。2006年9月からユニセフ東京事務所、シニアプログラムオフィサーに就任。2008年7月からUNICEFインド事務所副代表。2010年4月よりUNICEF東京事務所代表。